圧倒的スポットに集まる人をどう巡らせるか?「下灘駅」を擁する愛媛県伊予市が挑む観光分散と地域再編集の現在地
伊予市(愛媛県)ーー1718ニホン探索(73/1,718)
アジアのインフルエンサーにも人気の「下灘駅」
双海シーサイド公園のビーチ
「1718ニホン探索」の73番目の訪問地として足を運んだのは、私の故郷・愛媛県にある伊予市だ。
伊予市といえば、何といっても「JR下灘駅」が全国的に有名である。海の目の前にぽつんと佇む無人駅のロケーションは、SNSやインフルエンサーの発信を通じて世界中に拡散され、今やアジア圏をはじめとする多くの外国人観光客がレンタカーを駆って訪れる一大フォトスポットとなっている。
しかし、現地で伊予市役所商工観光課のご担当者とお話しする中で見えてきたのは、突き抜けた人気ゆえの「オーバーツーリズム(観光公害)」という切実な課題であった。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Yeah... Check it out, Iyo City Anthem! 3, 2, 1, Drop! 波の音がビートに重なる 削り節の薫りが風に乗る おいでよ 愛媛県伊予市へ なんしょん? うちと一緒に踊ろうや! 朝イチ 予讃線(よさんせん)ガタゴト揺られて 窓の外 碧(あお)いグラデーションに抱かれて 日本一の出汁(だし)の街 誇る花かつお 歴史と伝統 胸に燃える情熱・あつお! 山側に目を向ければ 緑のウェーブ 中山の栗 ほくほくの甘みをセーブ 唐川(からかわ)のびわ みずみずしい果汁 自然の恵みが 私達のエネルギー・チャージ! 五色姫(ごしきひめ)の浜で 裸足になって 潮風受けたら 悩みも吹き飛んで 「来てみん? ほんと、ええとこやけん!」 地元の愛が 心を満たしてく 地元の愛が 心を満たしてく 海と空が出会う 街の風景(ステージ)で ひこーかい! 夕日の街へ行ってみようかい! 「大好きやけん!」って 声揃えて歌おうかい! 国道378 夕やけこやけライン ドライブしようよ 気分は最高潮・ファイン 道の駅ふたみで ソフトクリーム頬張り 寄り道ばかりの旅も 悪くないやん? 五色浜の夕暮れ オレンジ色のマジック 地元のおばちゃん 「上がっていきな」ってドラマチック 温かい言葉と 笑顔が宝物 ここにしかない かけがえのない場所 静かにたたずむ プラットフォーム 海に一番近い駅 「下灘駅(しもなだえき)」 世界中が魅せられる 奇跡のシネマティック 茜色に染まる海 影絵になるシルエット スマホの画面越しじゃ 伝わりきらんセット 「うち、ずっとこの街に居たいわ」 呟いた言葉が 波音に溶けていく 伊予の風が吹く この場所で 海と空が出会う 街の風景で ひこーかい! 夕日の街へ行ってみようかい! 「大好きやけん!」って 声揃えて歌おうかい! 沈む夕日を見送って 明日へ続く道 伊予市がくれた 最高の思い出(ギフト) 「また来とうなったやろ(また来なくなったでしょ)?」 いつでも待っとるけんね!
「スポット依存」脱却のカギは情報の再編集と分散化にあり
下灘駅周辺の海沿いは敷地が限られており、押し寄せるレンタカーによる駐車問題や交通渋滞が深刻化している。かつて観光プロモーションとして仕掛けた施策が見事に花開いた一方で、現在は「特定の一点に観光客が集中しすぎる」という現代観光の歪みに直面しているのだ。
私が全国を巡る中で強く感じているのは、「オーバーツーリズムの本質は、情報の偏りにある」ということだ。
先日対談した京都の松井市長との会話でも話題に上ったが、例えば嵐山の竹林が観光客で埋め尽くされている一方で、少し離れた未開拓の竹林や歴史ある街並みには驚くほど人がいない。情報が海外プラットフォームや一部のSNSインフルエンサーによって特定スポットに偏重しているため、すぐ近くにある魅力的な資源に光が当たっていないのだ。
伊予市においても同様である。下灘駅という強烈なアイデンティティがあるからこそ、そこに集まった人々をいかに市内の別エリア(商店街や中山間地域など)へ誘導するか。人が集まる場所に情報発信拠点を設け、「情報の分散」を図るアプローチが今まさに求められている。
双海エリアにある「下灘駅」はインスタ映えの聖地として国内外で大人気。
新たな風が吹く商店街と、地域に根差す地場の「本物」
下灘の海側の狂騒とは対照的に、伊予市の中心部や中山間地域には、地域を持続可能にするための着実な芽が育っていた。
かつてシャッター街となりつつあった駅前の商店街には、地域おこし協力隊や市外からの移住者が集まり、クラフトビール店やワッフル専門店、おにぎり屋といったセンスの光る店舗をオープンさせている。また、シーサイド公園での婚活イベント開催や、海を臨むロマンティックなラウンジの設置など、行政と民間の感性が噛み合った施策も展開されていた。
取材後、教えていただいたスポットをいくつか実際に訪ねてみた。
特に印象的だったのが、伊予市ブランドにも認定されている豆腐店「豆愛(まめあい)」だ。ここで味わったヘルシー且つ濃厚な豆乳シェイクは、素材の旨味が凝縮された絶品であった。伊予市にはヤマキやマルトモといった大手食品加工企業が本拠を置く歴史があるが、こうした食文化の基盤の上に、若い挑戦者が新しい価値を重ねている姿は非常に頼もしい。
さらに、京都の伏見稲荷を思わせる鳥居が連なる「稲荷神社」や、頂上から市街地と瀬戸内海が一望できる「森林公園」など、静かに愛でるべき隠れた資源も市内に点在している。
伊予市を代表する企業、「ヤマキ」と「マルトモ」
地元で大人気の「豆愛」
地方発の新しい選択肢を、伊予市から
松山市のベッドタウンとしての利便性を保ちつつ、豊かな海と山を併せ持つ伊予市。過疎化が進む中山エリアなどの課題を抱えつつも、ここには確実に「外からの人を惹きつける磁力」と「新しい事業を育む土壌」が存在する。
一点集中から、地域全体の周遊・滞在へ。下灘駅という強力なフックを入口にしつつ、商店街の賑わいや地場の素晴らしい食、自然豊かな体験へと波及させていく仕組みができれば、伊予市は地方創生の見事なモデルケースになるはずだ。
四国の風を感じながら、この街が持つポテンシャルの高さを改めて確信した訪問となった。
中山エリアにも魅力的なスポットが多いが、下灘駅の集客力を活かしきれていない。
道の駅ふたみ
伊予の市街地にある「町屋」
伊予市の情報まとめ
愛媛県の中央部に位置し、瀬戸内海(伊予灘)に面する人口約3万人の都市。松山市に隣接する利便性を持ちながら、美しい海と緑豊かな山々に囲まれた自然豊かな地域である。削り節の生産量が日本一クラスであり、ヤマキやマルトモなどの大手食品加工メーカーの本社が集積する「削り節の街」としても全国的に名高い。
産業: 水産加工業(削り節・出汁関連)が基幹産業。温暖な気候を活かしたみかんやキウイ、中山栗などの農業も盛ん。
文化・観光: 夕日の名所として知られる「JR下灘駅」や「道の駅ふたみ(シーサイド公園)」が人気の観光スポット。伏見稲荷に似た情緒ある「稲荷神社」や森林公園など隠れた名所も多い。
グルメ: 特産の削り節を使った出汁文化のほか、中山栗のスイーツ、地場大豆にこだわった「豆愛」の豆腐・豆乳ソフトクリーム、下灘住宅のしょうゆソフトクリームなどが親しまれている。
今回お話を伺った方
伊予市役所 商工観光課 御担当者様 愛媛県南予地方出身。伊予市の自然や風土、食文化の魅力に惹かれ、同市役所に入庁。現在は商工観光課の担当者として、市内観光資源のプロモーションや地域活性化事業、ふるさと納税関連業務などに幅広く携わる。下灘駅周辺のオーバーツーリズム対策と、市内各エリアへの観光客分散・移住定住促進に向けた施策の企画・運営に日々奮闘している。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。













