舞台芸術が紡ぐまちの未来――愛媛県東温市が挑む「アート・ヴィレッジとうおん構想」の現在地

東温市(愛媛県)ーー1718ニホン探索(80/1,718)

東温市(愛媛県)の現地取材写真

四国の歴史、偉人をテーマとした舞台を通年で行っている「坊っちゃん劇場」

東温市(愛媛県)の現地取材写真(2)

滑川渓谷 奥の滝

全国1,718市町村を巡る「ニホン探索」。80番目の訪問地として訪れたのは、私の故郷・愛媛県にある東温市(とうおんし)です。

松山市の東隣に位置する東温市は、愛媛大学医学部附属病院や愛媛医療センターなどを擁する「医療のまち」であり、高速道路のインターチェンジを2カ所抱える物流の要衝、そして住みやすいベッドタウンとしての顔を持っています。しかし、この街には全国でも類を見ない、極めてユニークな地方創生の挑戦があります。それが、舞台芸術を核としたまちづくり「アート・ヴィレッジとうおん構想」とその後継である「とうおんアート共創ビジョン」です。

今回は、東温市役所 生涯学習課の担当者様にお話を伺い、この10年間の歩みとこれからの展望について取材してきました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

重信川のせせらぎから 広がるステージ
皿ヶ嶺の風に乗せて ここがウチらのホームタウン
東温スタイル、幕が上がるぜ

見渡すパノラマ 皿ヶ嶺連峰
清流が潤す 豊かな田園風景
白猪の滝が凍る冬の静けさ
春の陽気に誘われ 滑川渓谷へ
「ほやけん言ったろ?」自然だけやない
アートヴィレッジ構想 未来へのサイン
クールス・モール抜けて 劇場へ急ぐ
坊っちゃん劇場 感動を繋ぐ
舞台の上で光る役者の熱気
観客の手拍子が街を揺らす仕組み

うちの自慢はまだまだあるけんね
陽光桜が咲く春 色づく街並み
もち麦ごはんに 甘いハウスいちご
どぶろく特区で乾杯 ほろ酔いの午後
「なんしよん?はよおいでや!」呼ぶ声がする
利楽の温泉で 芯まで温もる
かすみの森公園 みんなで語り明かす
この街の魅力、尽きることなんてないんよ

東温シティ アートが息づく街
重信・川内 重ねたストーリー
幕が開けば 誰もが主役になれる
「おいでや東温」 心つなぐメロディ
風が抜ける谷間から 未来を描き出そう
ここは夢が躍る場所 アートヴィレッジTOON!

舞台の灯りは消させんけん
いつでもここで待っとるよ
東温、マイホームタウン。

全国的にも稀有な「常設型市民劇場」から始まった挑戦

東温市には、四国や瀬戸内の歴史・偉人をテーマにしたミュージカルなどを通年で上演している常設劇場「坊っちゃん劇場」があります。地方において、通年営業の本格的な劇場が存在すること自体が極めて珍しいことです。

合併から約10年が経過した頃、市は中山間地域の活性化や人口減少対策といった課題に直面していました。全国の多くの自治体が似通った移住施策や観光振興を模索する中、東温市が着目したのが、この地域固有の資源である「舞台芸術」でした。

民間事業者である坊っちゃん劇場と行政が手を取り合う「官民共創」の形でスタートしたのが「アート・ヴィレッジとうおん構想」です。市域全体を舞台芸術のフィールドと見立て、景観の美しい中山間地域での公演や、拠点の整備を進めていきました。

その象徴的な拠点が、商業施設のテナントを活用して開設された「東温アートヴィレッジセンター」です。「東温アートヴィレッジセンター」には、小劇場「シアターNEST」、多目的稽古場「リハーサルホールNEST」、交流サロン「アトリエNEST」の3つがあり、本格的な創作・公演活動はもちろん、ワークショップなどにも活用できるなど、文化発信拠点を整備し、指定管理者制度を導入しながら、市民が演劇に触れ、表現できる場を整えていきました。

東温市(愛媛県)の現地取材写真:全国的にも稀有な「常設型市民劇場」から始まった挑戦

坊っちゃん劇場

東温市(愛媛県)の現地取材写真:全国的にも稀有な「常設型市民劇場」から始まった挑戦(2)

東温アートヴィレッジセンター

東温市(愛媛県)の現地取材写真:全国的にも稀有な「常設型市民劇場」から始まった挑戦(3)

坊っちゃん劇場隣にある、温泉&ホテル「利楽」

舞台芸術に惹かれて集まる「外からの情熱」

私が全国を巡る中で強く感じるのは、まちの空気を変えるのは常に「情熱を持ったリーダーの存在」だということです。東温市のアートヴィレッジ構想において特筆すべきは、全国的にも珍しい「アート担当」の地域おこし協力隊を募集し、専門的な知見を持つ人材を呼び込んできた点です。

これまで10名以上の協力隊員が関わり、舞台芸術を学んできた若手や、劇団を主宰していた経験者など、市外の専門人材がこの地に定着しました。現在では、坊っちゃん劇場と共に新たに立ち上がった一般社団法人Nurture Arts TOON(ナーチャーアーツとうおん)とのコンソーシアムが施設の運営や企画を担い、民間の自立的な推進力が育ちつつあります。

「アートが共創できる街」というユニークな旗印を掲げたことで、多様な文化芸術人材が集まり、小さなコミュニティが形成されている。80市町村を巡ってきた私から見ても、舞台芸術を明確なコンセプトとして行政が旗を立て、民間人材がそれに応えて現場を動かしている事例は初めてであり、非常に先駆的なステップだと感じます。

東温市(愛媛県)の現地取材写真:舞台芸術に惹かれて集まる「外からの情熱」

東温市ふるさと交流館さくらの湯

東温市(愛媛県)の現地取材写真:舞台芸術に惹かれて集まる「外からの情熱」(2)

POEME SWEETS PARK

東温市(愛媛県)の現地取材写真:舞台芸術に惹かれて集まる「外からの情熱」(3)

県内の小中学校の給食牛乳を提供する「らくれん」

「観る」から「創る」へ――10年目の深化とこれからの可能性

構想スタートから10年が経過し、事業の所管は市長部局から教育委員会の生涯学習課へと引き継がれました。これは、初期の「外に向けたプロモーション」から、「地域に文化として根付かせるフェーズ」へと移行したことを意味しています。

これまでの「作品を観せる」取り組みに加え、現在は市民自身が企画やスタッフとして関わる「市民ミュージカル」の推進や、幼稚園への巡回演劇といったアウトリーチ活動などにも注力されています。劇場で待つのではなく、演劇のプロが子どもたちの日常へ出向くことで、次世代の感性を育み、家族や地域を巻き込む輪が広がっています。

さらに今、学校部活動の地域移行が進む中で、東温市の持つ演劇の土壌は大きな可能性を秘めています。例えば、全国から演劇を志す子どもたちを受け入れる「演劇留学」や進学に合わせた「移住」のような取り組みなど、東温市だからこそ提供できる独自の教育・文化環境へと発展していく期待が膨らみます。

行政が方向性を定め、民間のリーダーが育ち、10年かけて培われたコミュニティ。この文化の芽を絶やすことなく、市民の誇り(シビックプライド)へと昇華させていく東温市の挑戦に、今後も注目していきたいと思います。

東温市(愛媛県)の現地取材写真:「観る」から「創る」へ――10年目の深化とこれからの可能性

愛媛大学医学部附属病院

東温市(愛媛県)の現地取材写真:「観る」から「創る」へ――10年目の深化とこれからの可能性(2)

国立病院機構 愛媛医療センター

東温市(愛媛県)の現地取材写真:「観る」から「創る」へ――10年目の深化とこれからの可能性(3)

愛媛十全医療学院附属病院

東温市の情報まとめ

愛媛県の中予地方に位置する、人口約3.3万人の都市。松山市に隣接するベッドタウンであり、緑豊かな山々や清流に囲まれた自然環境と生活利便性が調和しています。松山自動車道のインターチェンジを2カ所擁し、製造業や流通拠点として発展する一方、愛媛大学医学部附属病院をはじめとする大型医療機関が集積する「医療のまち」としても知られます。さらに通年営業の「坊っちゃん劇場」を核に「アート・ヴィレッジっとうおん構想」を展開し、令和8年度からは、後継の「とうおんアート共創ビジョン」を掲げ、舞台芸術のまちづくりを推進しています。

産業:愛媛大学医学部附属病院などを中心とした医療・福祉分野や先端医療関連事業が盛ん。交通の利便性を活かした工業団地・物流拠点の集積や、温暖な気候を活かした農業(米、麦、野菜、果樹)も行われています。

文化・観光:地域文化や偉人を題材にしたミュージカルを上演する「坊っちゃん劇場」や「東温アートヴィレッジセンター」、国の名勝「白猪の滝」「唐岬の滝」、皿ヶ嶺や滑川渓谷など自然景観に恵まれています。

今回お話を伺った方

東温市 教育委員会 生涯学習課 ご担当者様 東温市における社会教育、生涯学習の推進、市民文化・芸術活動の振興を担う。地域資源である「坊っちゃん劇場」等を核とした「アート・ヴィレッジとうおん構想」(令和8年度からは、後継の「とうおんアート共創ビジョン」)を推進し、市民が舞台芸術に親しみ参画できる環境づくりや、地域連携による文化振興事業を展開している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。

福本拓元(株式会社ニホンノチカラ代表)