生活道から世界の聖地へ。サイクリングとスポーツが切り拓く「サイクルシティ今治」の未来

今治市(愛媛県)ーー1718ニホン探索(82/1,718)

今治市(愛媛県)の現地取材写真

亀老山展望公園から見る「来島海峡大橋」

今治市(愛媛県)の現地取材写真(2)

しまなみ海道には、10か所のレンタサイクルポイントが。

「地方発、日本再生!」を掲げ、全国1,718の市町村を巡るニホン探索の旅。82番目に訪れたのは、愛媛県の今治市です。

造船とタオルの街として知られる今治ですが、近年は世界中のサイクリストが憧れる「しまなみ海道」を擁するサイクルシティとして、そして移住人気が極めて高い街として大きな注目を集めています。宝島社が発表する「住みたい田舎ベストランキング」では4年連続で4冠を達成。地元紙でも「移住者増 活性化へ期待 サイクリング人気 追い風」と報じられるなど、自転車を軸とした街づくりが人を惹きつける強力な磁力となっています。

今回は、今治市役所の「サイクルシティ推進課」と「スポーツ振興課」を訪問し、世界を魅了するサイクリング施策の神髄と、里山スタジアム(アシックス里山スタジアム)を中心としたスポーツによる地域活性化の現在地を伺ってきました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo... 潮風切ってペダル回す
来島海峡、見下ろすこの場所
タオル握りしめ、前だけ見とるけん
行こや、今治のテッペンへ

蒼い海を跨ぐ ブリッジロード
風を追い越して 漕ぎ出そう
今治のプライド ぎゅっと胸に抱いて
ここが俺らの 帰る場所なんよ
ペダル踏み込め 夢の先へ
しまなみ抜けて 輝け未来へ

造船のドックに 響く鉄の音
世界に誇れる 職人の誇りと
織りなす今治タオル 手に汗握る
どんな高い壁も 拭って生きる
腹が減ったら 焼豚玉子飯
鉄板焼き鳥で 語り明かした日
「なんしよん?」って笑い合う仲間
この街のぬくもり 忘れんけん、だから

蒼い海を跨ぐ ブリッジロード
風を追い越して 漕ぎ出そう
今治のプライド ぎゅっと胸に抱いて
ここが俺らの 帰る場所なんよ
ペダル踏み込め 夢の先へ
しまなみ抜けて 輝け未来へ

里山スタジアムに 響き渡る声
FC今治 航海は終わらねえ
蒼福のパスを繋ぎ 奇跡を起こす
青と黄色の旗 風に揺らす
サイクルシティ 走り抜ける大橋
二輪のタイヤが 描くこの軌跡
多島美の景色 宝もんじゃけん
世界中探しても ここにしかないねん

登り坂がきつくても 立ち止まらん
振り返れば 穏やかな瀬戸の海
「行てこーわい!」背中押す声がする
俺らの鼓動は ずっと止まらん

蒼い海を跨ぐ ブリッジロード
風を追い越して 漕ぎ出そう
今治のプライド ぎゅっと胸に抱いて
ここが俺らの 帰る場所なんよ
ペダル踏み込め 夢の先へ
しまなみ抜けて 輝け未来へ

しまなみライド、ずっとこの街と
今治、俺らのホームタウン
ずっと好きなんよ
Peace out...

偶然の要望から生まれた「世界屈指のサイクルルート」

しまなみ海道の最大の特徴は、瀬戸内海を渡る巨大な橋梁群に、歩行者・自転車専用道が併設されている点にあります。レインボーブリッジや瀬戸大橋、明石海峡大橋など、日本の主要な海上橋を見渡しても、車道と並行して自転車で海を渡れるルートは極めて稀です。

お話を伺う中で非常に興味深かったのは、この構造が最初から観光サイクリングを目的に設計されたわけではなかったという事実です。

海道架橋の初期、因島大橋の工事用作業道を「島民の歩行者や自転車の生活道として残してほしい」という、当時の地元町長による強い要望が発端でした。離島振興のための生活動線の確保。その切実な地域住民への配慮が、結果として世界的なサイクリングルートの礎を築いたのです。

その後、2000年には今治市と尾道市が連携し、10カ所のターミナルで乗り捨てが可能なレンタサイクル相互乗り入れの仕組みを導入。2014年の高速道路を規制した国際サイクリング大会を契機に利用者は一気に跳ね上がりました。さらに現在は、協議会による負担金拠出によってサイクリストの通行料が無料化され、国内外から訪れる人々を温かく迎え入れる体制が整っています。

日経新聞の国内ランキング1位選出をはじめ、CNNやミシュラン、ロンリープラネットといった世界的メディアで絶賛された結果、2012年頃には約2%に過ぎなかったインバウンド比率は、現在なんと4割を超え、70カ国以上から旅人が訪れるまでになりました。

今治市(愛媛県)の現地取材写真:偶然の要望から生まれた「世界屈指のサイクルルート」
今治市(愛媛県)の現地取材写真:偶然の要望から生まれた「世界屈指のサイクルルート」(2)
今治市(愛媛県)の現地取材写真:偶然の要望から生まれた「世界屈指のサイクルルート」(3)

しまなみ海道を通り、瀬戸内の島々の風景を眺めながらのサイクリングが、世界の人々を魅了する理由。

欧米豪が熱狂する「体験価値」と滞在型観光への転換

現場で特に際立っているのが、訪日外国人の国籍構成です。日本の一般的な観光地ではアジア圏(台湾・韓国・中国など)が上位を占めることが多いのに対し、しまなみ海道ではアメリカ、オーストラリア、イギリス、ドイツなど欧米豪の観光客が上位に名を連ねています。

かつて私がアメリカに渡り、多民族社会で暮らしていた頃に痛感したのは、彼らが「受動的に風景を眺める観光」よりも「自ら汗を流し、五感で自然と文化に溶け込む体験」を圧倒的に好むという価値観でした。まさに瀬戸内海の多島美を自らの足で漕ぎ抜ける体験は、欧米豪の人々が求めるアドベンチャーツーリズムの理想形そのものです。

一方で、現状の課題も浮き彫りになっています。観光消費額の面では、アクセスの良さや情緒ある街並み、そして1泊10万円を超える富裕層向け宿が20軒以上集まる対岸の尾道市に対して、今治市はまだ後塵を拝している側面があります。

しかし、現在はまさに大きな変革期を迎えています。伯方島でのオーベルジュ建設や大三島での新規ホテル開発など、瀬戸内のプライスレスな景観価値を最大限に活かした高級ヴィラや宿泊施設の整備が着々と進行しています。今治市サイクリングターミナル「サンライズ糸山」の改修を含め、「通過する観光」から「ゆっくり滞在し、地域にお金を落とす上質な観光」へのシフトが力強く進められています。

さらに、しまなみ海道メインルート(約70km)にとどまらず、上島町の「ゆめしま海道」や広島県側の「とびしま海道」との広域連携、島内回遊ルートのブルーライン整備など、リピーターを飽きさせない面的展開が進んでいる点にも、地方創生の力強い息吹を感じました。

今治市(愛媛県)の現地取材写真:欧米豪が熱狂する「体験価値」と滞在型観光への転換
今治市(愛媛県)の現地取材写真:欧米豪が熱狂する「体験価値」と滞在型観光への転換(2)
今治市(愛媛県)の現地取材写真:欧米豪が熱狂する「体験価値」と滞在型観光への転換(3)

景色を見ながらサイクリングするだけではなく、瀬戸内の島々にあるスポットを巡れるのも魅力の一つ。大山祇神社はパワースポットとしても人気。

スポーツと地域共創の新たなシンボル「里山スタジアム」

続いて訪れたスポーツ振興課では、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏が率いる「FC今治」の拠点であり、今治市営スポーツパークに隣接する「里山スタジアム(アシックス里山スタジアム)」の取り組みについて伺いました。

このエリアはもともと山を切り開き、2017年の愛媛国体に向けてテニスコートを先行整備したことから始まった場所です。特徴的なのは、土地は今治市が保有しつつ、スタジアムの建設や運営、その後の増設に至るまで、FC今治側が民間資金と熱意を結集して推進している点です。

市が担う公共スポーツ施設の管理と、民間クラブが手掛ける「里山サロン」などの魅力的なコミュニティ機能。公私が見事に役割分担をしながら、市民が日常的に集う心地よい空間が形作られています。高台に位置するため駅からの二次交通や自転車アクセスの整備など今後の課題はあるものの、スポーツを核にしたコミュニティの可能性は無限に広がっています。

今治市(愛媛県)の現地取材写真:スポーツと地域共創の新たなシンボル「里山スタジアム」
今治市(愛媛県)の現地取材写真:スポーツと地域共創の新たなシンボル「里山スタジアム」(2)
今治市(愛媛県)の現地取材写真:スポーツと地域共創の新たなシンボル「里山スタジアム」(3)

今治市営スポーツパーク内にあるFC今治のホームスタジアム「アシックス里山スタジアム」

地方の宝を磨き、世界へと解き放つ

自らの足でペダルを漕ぎ、瀬戸内の潮風と柑橘の香りを感じ、地域の人々と交わる。しまなみ海道が切り拓いてきたサイクリングの文化は、単なる移動手段を超え、地域の産業や人の流れを劇的に変える力を持っています。

生活道から始まった道が、世界基準のデスティネーションへと昇華したように、日本の地方にはまだ誰も気づいていない無数の「宝」が眠っています。行政の着実なインフラ整備と、民間の熱い情熱が掛け合わさったとき、地方は世界を惹きつける唯一無二の輝きを放ちます。

故郷のすぐ隣で繰り広げられているこの先進的な挑戦に深い敬意と刺激を受けながら、私はまた次の町へと歩みを進めます。

今治市(愛媛県)の現地取材写真:地方の宝を磨き、世界へと解き放つ
今治市(愛媛県)の現地取材写真:地方の宝を磨き、世界へと解き放つ(2)
今治市(愛媛県)の現地取材写真:地方の宝を磨き、世界へと解き放つ(3)

タオルの町今治を象徴する「タオル美術館」

今治市の情報まとめ

愛媛県の北東部、東予地方に位置する人口約14万人の都市。瀬戸内海の風光明媚な島々を擁し、古くは村上水軍(海賊)が活躍した歴史と、大山祇神社をはじめとする豊かな文化遺産が息づく要衝です。

産業:全国屈指のシェアを誇る「今治タオル」に代表される繊維産業と、国内トップクラスの集積度を誇る「海事都市」としての造船・海運業が基幹産業として地域経済を力強く牽引しています。

文化・観光:瀬戸内海を渡り本州と結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」は世界的なサイクリングの聖地として定着。日本三大水城の一つ「今治城」や、伯方島・大三島などの島嶼部には絶景スポットが点在します。

グルメ:鉄板で素早く焼き上げる独特のスタイルの「今治焼鳥」や、ご飯の上にタレと目玉焼きが乗ったソウルフード「焼豚玉子飯」、瀬戸内海の荒波で育った新鮮な真鯛を使った「鯛めし」など多彩な食文化が親しまれています。

今回お話を伺った方

今治市役所 サイクルシティ推進課 / スポーツ振興課 御担当者様 サイクルシティ推進課は、「サイクリングの聖地」しまなみ海道の利活用促進、国内外へのプロモーション、受入環境の整備など、自転車を軸とした先進的な街づくりを統括。スポーツ振興課は、今治市営スポーツパークをはじめとする市内スポーツ施設の管理運営や市民スポーツ振興、プロスポーツとの連携を通じた活力ある地域づくりを担っています。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。

福本拓元(株式会社ニホンノチカラ代表)