讃岐うどん発祥の地・香川県綾川町で見つけた「空き家再生×インバウンド」が拓く地方の未来
綾川町(香川県)ーー1718ニホン探索(93/1,718)
うどんといちごの郷「道の駅 滝宮」
全国1,718すべての市町村を自らの足と車で巡り、首長や地域リーダーの方々と対話しながら日本の真の価値を発掘する「1718ニホン探索」。93番目に訪れたのは、香川県の中央部に位置する綾川町(あやがわちょう)です。
私は愛媛県新居浜市の出身で、かつて母親の会社で四国中を営業車で駆け回っていた頃から、この香川の土地勘や空気感には強い愛着があります。ここ綾川町は、北を高松市や坂出市、西を丸亀市に囲まれた、まさに香川の“へそ”とも言える交通の要衝。高松空港の滑走路の一部が町内に食い込んでいるほど空港に近く、都市部のベッドタウンとしても機能する一方で、南側には緑豊かな山々と美しい渓谷が広がる、自然と暮らしが調和した町です。
今回、綾川町役場の「いいまち推進室」を訪ね、地域の魅力や直面する課題、そしてこれからの可能性についてじっくりとお話を伺いました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
空見上げりゃ ジェットの影 澄んだ綾川 流れる風 讃岐の真ん中 誇れる地元 綾川生まれ 綾川育ち いんでこーわい、ここが原点 行こまい、ほんだら歌おまい! 高松・坂出 すぐそこアクセス 通勤快速 暮らしのサクセス 滑走路の端 飛び立つフライト 山並み照らす 夕日のライト ベッドタウン? それだけじゃない 歴史と誇り 褪せやしない うどん発祥 滝宮の杜 つるりとすする コシある命 ダシの香りに誘われて 今日も一日「お疲れさん」って 朝から並ぶ 名店の列 イリコと小麦の 強い情熱 「なんしょんな?」交わす挨拶 近所の笑顔 心があったまる 田野の緑に 癒やされる日暮れ イオンに行けば 誰かに会えるね 住みやすさなら どこにも負けん この町が好きやけん ずっとおるけん 綾なす風が 吹き抜ける街 讃岐の心 ここがはじまり 空へと伸びる 白い飛行機雲 コシの強さで 夢を繋ごう 「あしたも また会おな」って言える場所 綾川町で 刻む足音 綾なす風が 吹き抜ける街 讃岐の心 ここがはじまり 空へと伸びる 白い飛行機雲 コシの強さで 夢を繋ごう 「あしたも また会おな」って言える場所 綾川町で 刻む足音 空港の灯り 見上げながら あったかいダシ すすりながら ほんだら、また明日な 気ぃつけていんできーよ 綾川、わしらの帰る場所
空海がもたらした「うどん発祥」の物語と、雨と向き合ってきた歴史
役場に足を踏み入れてまず目を引いたのは、親しみやすい地域資源の活かし方でした。役場のすぐ近くには、人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター「ヤドン」をモチーフにした遊具が並ぶ「ヤドン公園」があります。「うどん」と「ヤドン」の響きをかけた香川県の取り組みですが、平日の昼間でも親子連れの笑顔が溢れており、地域の日常に温かく溶け込んでいました。
しかし、綾川町の魅力はそうしたキャッチーな話題だけにとどまりません。歴史の深さにこそ、この町の神髄があります。実は綾川町は「讃岐うどん発祥の地」と伝えられています。平安時代、弘法大師・空海が唐からうどんの製法を持ち帰り、この地の滝宮(たきのみや)に伝えたという説が残されているのです。
讃岐平野は古くから雨が少なく、干ばつとの闘いを宿命づけられてきた土地です。水不足に苦しむ農民を救うために小麦栽培が広まり、うどん文化へと昇華していった背景があります。役場の方によれば、国の重要無形民俗文化財である「滝宮の念仏踊」も、菅原道真が雨乞いを行い、雨が降ったことを歓喜して踊ったのが起源とされ、700年以上の歴史を刻んでいます。さらに大正天皇即位の大嘗祭で米を献上する田として占いで選ばれた「主基斎田(すきさいでん)」の伝統を伝えるお田植まつりも、100年以上にわたって受け継がれてきました。
厳しい自然環境と向き合い、祈りを捧げ、食の文化を育んできた先人たちの粘り強さ。その精神が、今もこの町の土台にしっかりと息づいています。
ヤドン公園
滝宮天満宮
自然の神秘「風穴」と、一次産業の豊かなポテンシャル
綾川町は一次産業の宝庫でもあります。香川県の農業試験場が置かれ、温暖な気候を活かしたイチゴ、シャインマスカット、柿などの果樹栽培が盛んです。また、地元の米を使った酒造りや、米由来の成分を活かした化粧品開発を手掛ける酒蔵があるほか、東部の山あいでは上質な肉質を誇るブランド豚「讃岐もち豚」の養豚も行われています。
地域の自然スポットとして役場の方が熱を込めて教えてくださったのが、日本三大風穴の一つに数えられる「風穴(ふうけつ)」でした。道路からわずか30秒ほど山肌を登った場所にあり、岩の隙間から吹き出す冷気によって、真夏でも気温が10度から12度程度に保たれるといいます。まさに天然のクーラーです。すぐ近くには「水源の森百選」にも選ばれた景勝地・柏原渓谷やキャンプ場「龍王の森」もあり、手つかずの自然を五感で楽しめるレジャースポットが点在しています。
豊かな農産物、清らかな水、そして神秘的な自然。これらは都会に暮らす人々にとって、何物にも代えがたい贅沢な資源です。
讃岐うどん発祥の地「綾川町」には多くのうどん店が。
空き家を「世界基準の体験拠点」へ変える挑戦
今回の対談で私が最も深く共鳴したのは、人口減少と過疎化に対する綾川町の先進的な取り組みでした。
平成の大合併で旧綾南町と旧綾上町が一つになって誕生した綾川町ですが、北部の平野部がベッドタウンとして機能する一方で、南部の旧綾上地区では過疎化と高齢化が進んでいます。そこで町では、旧綾上地区に特化し、町が空き家を借り上げて改修し、移住希望者へ提供するモデル事業を展開しています。
さらに民間主導の動きとして注目されているのが、古民家をリノベーションした体験型宿泊施設「ココン(Cocon)」です。古き良き日本の佇まいを残した宿で、地元住民とのピザ作りなどの農村体験を提供しており、日本の原風景を求める欧米をはじめとするインバウンド旅行者から高い支持を集めています。
私は前日、隣の坂出市の大越エリアにある囲炉裏や五右衛門風呂を備えた古民家宿を視察し、その夜の高松での経営者コミュニティでも地方再生について熱く議論を交わしたばかりでした。今、海外の感度の高い旅人たちは、東京や京都のラグジュアリーホテルを巡る旅から、その土地ならではの生活文化に触れる「本物のローカル体験」へと明確にシフトしています。
綾川町は、高松空港から車ですぐという抜群のアクセスを誇ります。この町に拠点を置き、昼は琴平や瀬戸内海の島々を巡り、夜は静かな古民家で地域の食と酒を味わう。そんな滞在型観光のハブとして、綾川町の古民家再生は極めて大きな可能性を秘めています。点在する空き家を単なる負債として捉えるのではなく、地域と世界を結ぶ「体験の拠点」へと磨き上げる。これこそが、地方が世界に打って出るための強力な一手になると確信しました。
道の駅で味わう、香川県産小麦「さぬき夢2000」の底力
役場のご担当者様がおススメと太鼓判を押してくださったうどん店が「道の駅 滝宮」に入っています。ここは讃岐うどん発祥の地にふさわしく、香川県産小麦の代表格である「さぬき夢2000」を100%使用したこだわりの麺を提供しています。
そのうどんは、ツルツルとした心地よい喉ごしの奥に、しなやかで押し返すような力強いコシがある。噛みしめるほどに小麦本来の豊かな風味が口いっぱいに広がり、出汁の繊細な旨味と完璧に調和します。
町内には有名店も多く存在しますが、日常の暮らしの中に当たり前のように最高品質の一杯が存在している。その食文化の厚みに、改めて脱帽しました。
歴史ある伝統、豊かな食と自然、そして世界を見据えた新たな挑戦。綾川町には、地方がこれからの時代を生き抜き、輝きを放つための確かなヒントが詰まっていました。この素晴らしい可能性を埋もれさせることなく、世界に解き放っていく――。その思いを胸に、私は次の目的地へと車を走らせます。
古民家を活用した人気の宿「讃岐の宿 古今」(左)と「閑雲庵」(右)
綾川町の情報まとめ
香川県の中央部に位置する、人口約2.2万人の町。北部は高松市や坂出市のベッドタウンとして発展し、南部には緑豊かな山林が広がる。弘法大師・空海が唐から製法を伝えたとされる「讃岐うどん発祥の地」として名高い。
産業: 農業が盛んで、イチゴ、シャインマスカット、柿などの果樹栽培や、良質な米の生産が行われる。東部の山あいではブランド豚「讃岐もち豚」の養豚が営まれるほか、地元の米を活かした清酒や化粧品製造を手掛ける酒蔵も立地する。
文化・観光: 大正天皇即位時に選ばれた歴史を誇る「主基斎田お田植まつり」や、約700年以上の歴史を持つ国指定重要無形民俗文化財「滝宮の念仏踊」など伝統文化が色濃く残る。夏でも10度前後の冷気が漂う日本三大風穴の「風穴」や、景勝地・柏原渓谷、高山航空公園、ポケモンのヤドン公園など多彩な見どころがある。
グルメ: 町の代名詞である「讃岐うどん」。県産オリジナル小麦「さぬき夢2000」を使った風味豊かなうどんや、県内外から客が訪れる名店が点在する。豊かな自然に育まれた「讃岐もち豚」や新鮮な果物も名物。
今回お話を伺った方
綾川町役場 総務課 いいまち推進室 ご担当者様 綾川町の地域振興、移住・定住促進、コミュニティ維持、広報活動などを幅広く担う推進室の担当者。過疎化が進む南部・旧綾上地区での空き家借り上げ・改修モデル事業をはじめ、LINEを活用した自治会機能のデジタル化など、住民の暮らしやすさと町の持続可能性を高める先進的な施策に現場で奔走している。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。










