伝統は「問い」の中に。お茶の聖地・宇治で触れた「質の追求」という矜持
宇治市(京都府)ーー1718ニホン探索(18/1,718)
「中村藤吉本店」中村省悟社長(右)
京都府宇治市。この地名を耳にして、芳醇なお茶の香りを思い浮かべない人はいないでしょう。世界遺産である平等院鳳凰堂や宇治上神社を擁し、800年の茶の歴史を紡いできたこの街は、今や世界的な「抹茶ブーム」の中心地であり、常に熱気に包まれています。
今回の「1718ニホン探索」では、そんな宇治の街で、172年の歴史を誇る老舗「中村藤吉本店」の中村省悟社長、そして宇治市役所農林茶業課のご担当者にお話を伺いました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
千年の風が吹く 宇治橋を渡りはる あんたも この歴史に 見惚れてはるんやろ? 紫式部さんが 綴った物語 今も この川面に 溶け込んでるんやわ 縣(あがた)さんの祭 暗闇を走り抜ける 熱い魂は 誰にも止められへん 萬福寺で 普茶(ふちゃ)食べて 心整えて 「よう来はったなぁ」って 街が笑うてる 「見て、ええお茶の香りが しはるわぁ」 鼻をくすぐる 挽きたての抹茶 三室戸(みむろど)のアジサイ 雨に濡れてはる その姿が なんとも言えん 綺麗なんやわ 玉露みたいに じっくり甘くなって 宇治の娘(おなご)は 芯が通ってはるんやで 茶だんご片手に 寄り道しはる? 「かなわんなぁ」って 言いながら 笑うてたいねん Oh, Uji... 鳳凰(ほうおう)が舞い踊る 十円玉に描かれた 私たちのプライド 宇治川のせせらぎに Soulを乗せて 響き渡れ 翠(みどり)の調べ どこにいても ここが一番 ええとこやわ 夏の夜は 鵜飼(うかい)の火が 揺れてはる 篝火(かがりび)に 照らされて 夢心地やわ お腹が空いたら 茶そば 食べよし デザートは 抹茶パフェ 決まってはるやん! 「なんやかんや言うても」 「ここが一番やねん」 宇治っ子の絆 誰にも負けへんわ! 喜撰山(きせんやま)に 沈む夕陽が 黄金(こがね)に街を 染めてはる この景色を ずっと 守っていかなあかんね 愛してるわ U-J-I... Oh, Uji... 鳳凰が舞い踊る 十円玉に描かれた 私たちのプライド 宇治川のせせらぎに Soulを乗せて 響き渡れ 翠の調べ どこにいても ここが一番 ええとこやわ
「問屋」から「体験」へのピボットが生んだ熱狂
昨年夏に一度私が宇治を訪れた時驚かされたのは、中村藤吉本店の凄まじい行列でした。平日にもかかわらず数時間待ちは当たり前。今回、中村社長とお話をさせて頂き、そこには単なる「観光スポット」以上の、深い「こだわり」の集積が漂っている事がわかりました。
「うちは1990年代後半まで、原料を卸す問屋がメインだったんです」
中村社長は淡々と語ります。意外にも、現在のようなカフェやスイーツの展開は、約30年前に始まった「生き残りをかけた変革」でした。生活スタイルの変化でお茶の需要が下がる中、卸売(BtoB)から直接消費者へ(BtoC)へと舵を切ったのです。
特筆すべきは、その「こだわり」の深度です。中村社長は、抹茶チョコレート一つとっても、抹茶の風味や後味が理想通りになるまで自ら味見を繰り返し、納得がいかなければ世に出しません。さらに、商品の包装紙の厚みや、暖簾をくぐる際の手にかかる重みまで計算しているというから驚きです。
「中村藤吉らしさとは何か?という問いを、常に動詞として持っていたい。基準を固定化すれば、それはいつか足かせになる」
この言葉に、私は経営者として強く共感しました。私がユーグレナを創業した際も、ブランドの在り方には腐心しましたが、伝統に甘んじることなく「今、何が最高か」を問い続ける姿勢こそが、世界中のファンを数時間も並ばせる「熱狂」の正体なのだと確信しました。
(上)中村藤吉本店、(中)宇治川を眺める平等院店、(下)まるとパフェ【みどりの世界】
宇治茶の価値を守る「行政」の視点
一方で、宇治市役所の担当者からは、産地としての苦悩と誇りを伺いました。世界的なブームにより、宇治抹茶の価値は高騰していますが、その影で「抹茶」という名を冠した質の低い製品が国内外で出回るという課題に直面しています。
「宇治では今も伝統的な『手摘み』が守られています。量よりも質。この品質を守り抜くことこそが、私たちの使命です」
農林茶業課の担当者の方は、力強くそう仰いました。宇治の茶農家には30〜40代の若手後継者が多く、彼らは「宇治でお茶を作る」ことに強い誇りを持っているそうです。他の地域で課題となっている後継者不足が、ここでは「お茶」という圧倒的なブランドの力によって克服されている。これこそが、地方再生の理想的な形の一つではないでしょうか。
お茶の街「宇治」市内にはお茶の老舗が数多く存在。
取材を終えて:未来の伝統を創るということ
「自分たちが今やっていることが、100年後の人から『伝統』と呼ばれるような仕事をしたい」
中村社長のこの言葉が、私の心に深く突き刺さりました。伝統を守ることは、過去を維持することではない。今の時代において徹底的に「質」を追求し、変化し続ける「態度」そのものが、未来の伝統を創り上げるのです。
中村社長は「本物・偽物」という言葉を使いません。それは、何が正しいかを決めることよりも、自分たちがどう在るか、どう問い続けるかというプロセスに価値を置いているからでしょう。
宇治の街には、自然の恵みと、歴史に安住しない挑戦者の魂が共存していました。「ニホンノチカラ」は、こうした徹底した姿勢を持つ地域の人々と共に、日本の誇りを世界へ発信していきたいと、改めて決意を新たにしました。
平等院鳳凰堂や宇治川等、宇治には観光名所も豊富。
宇治市の情報まとめ
京都府の南部に位置する、人口約18万人の都市。世界遺産である平等院鳳凰堂や宇治上神社を有し、平安時代には貴族の別荘地として栄えた歴史を持つ。また、日本を代表する高級茶「宇治茶」の主産地として世界的にその名を知られており、街中には数多くの老舗茶商が軒を連ねている。
産業: 農業ではお茶(抹茶・玉露・煎茶)の生産が圧倒的。特に最高級の抹茶原料となる「碾茶」の品質は全国トップクラス。また、京扇子やくみひもなどの伝統工芸も息づいている。
文化・観光: 10円硬貨に描かれた平等院鳳凰堂をはじめ、源氏物語「宇治十帖」の舞台としても有名。宇治川の景観を活かした観光や、お茶文化を体験できる施設が豊富。
グルメ: 抹茶を贅沢に使用したパフェやそば、スイーツが充実。本場ならではの淹れ方で楽しむ玉露や、茶葉そのものを味わう料理など、お茶に特化した食文化が発展している。
今回お話を伺った方
中村 省悟(なかむら しょうご)氏 株式会社中村藤吉本店 代表取締役社長。1854年(安政元年)創業の老舗茶商の長男として生まれる。大学卒業後、家業に入り、2001年のカフェ事業立ち上げなど、伝統的なお茶の在り方を現代のライフスタイルに合わせた形へピボットさせる変革を主導。代々受け継ぐ「中村藤吉」の名を背負いつつ、質の追求と革新を続ける。
宇治市農林茶業課ご担当者様 農林業、茶業を担当し、宇治ブランドのお茶生産や産業育成を行政として支えている。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。













