「奇跡のデータ」が示す、自立した地方の理想形
長泉町(静岡県)——1718ニホン探索(9/1,718)
東静岡のベッドタウン、長泉町。
子育てしやすい環境が整っている長泉町
新幹線が停まる三島駅から、車を走らせてわずか数分。私は今、静岡県駿東郡長泉町(ながいずみちょう)の役場にいます。「1718ニホン探索」の9カ所目。正直に申し上げまして、今回の訪問は私にとって大きな「衝撃」の連続でした。
手渡されたパンフレットをひと目見て、自分の目を疑いました。
「将来負担比率 0%」
「合計特殊出生率 1.80(県内1位)」
「財政力指数 1.175(県内1位)」
「年少人口割合 15.9%(県内1位)」
地方創生を志し、日本の隅々まで見て回ろうと決めた私ですが、ここまで「勝ち筋」が明確に見える町は、全国でも極めて稀です。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
「自動車一本足」ではない、多様性の強み
産業振興課の担当者の方に話を伺う中で、まず私が注目したのはその「産業構造」です。 静岡県といえば、西は浜松の自動車、二輪車産業、東は製紙業というイメージが強いですが、ここ長泉町は少し違います。化学、食品、炭素繊維、医療、そして製紙。愛鷹山(あしたかやま)の豊かな水源を背景に、実に多種多様な企業が軒を連ねています。
「景気の波に左右されにくいのが、当町の強みです」
担当者の方が淡々と、しかし自信を持って語るその言葉に、私は深く頷きました。ユーグレナ創業期、私はリーマンショックの荒波をモロに受け、キャッシュフローが枯渇する恐怖を身をもって知りました。一つの産業、一つの取引先に依存することのリスクは、経営者にとって何よりも恐ろしいものです。
長泉町は、昭和の早い段階から大企業の誘致に成功し、多様な産業ポートフォリオを組み上げてきました。この「リスク分散」こそが、盤石な財政基盤の正体だったのです。
長泉町に進出する国内外大手企業。多様なジャンルの工場が進出している事がこの町の強み。
医療城下町がもたらす「所得と安心」の循環
もう一つの驚きは、長泉町が誇る「県立がんセンター」を中心とした「医療城下町」の形成です。 国内三大がんセンターの一つがここにあるという事実は、単なる病院の枠を超え、町全体のブランドと人口動態を大きく変えていました。
がんセンターの開院以降、医師や看護師、製薬会社関係者といった方々が次々と町に移り住みました。その結果、町民の平均所得は県内1位。所得の高い層が増えることで、税収が増え、さらにその財源が子育て支援へと還元されるという好循環が生まれています。
長泉町は、全国に先駆けて「医療費の無償化」などの手厚い支援を打ち出したことでも知られています。私がアメリカ留学中に見てきた「自ら稼ぎ、自らを豊かにする」という合理的な自立の精神が、日本のこの小さな町で、行政の仕組みとして完璧に機能していることに感動を覚えました。
がんセンターのある「ファルマバレー」は、この町の医療の柱。
「選ばれる町」ゆえの贅沢な悩み
しかし、そんな「モデル自治体」にも課題はあります。 一つは、三島駅から東京へ新幹線で一時間足らずという「近さ」ゆえの、若年層の流出です。大学進学や就職のタイミングで、若者たちはどうしても東京へと目を向けてしまいます。
「18歳から20代後半にかけての人口ピラミッドが少し凹んでいるんです」
さらに、皮肉なことに町の人気が高まりすぎた結果、地価や家賃が高騰し、周辺の市よりも住居費が高くなっているそうです。 「長泉で家を建てたかったけれど、高すぎて断念した」という声も珍しくないとお聞きしました。
ですが、私は思います。これは「衰退」を恐れる多くの自治体から見れば、羨ましくて仕方がない「贅沢な悩み」であると言えるのではないでしょうか。長泉町には、人が集まる確固たる理由があるのです。
私が長泉町で感じた「ニホンノチカラ」
取材を終え、私は改めてパンフレットに並ぶ「県内1位」の文字を見つめました。 長泉町の成功は、確かに「立地の良さ」や「豊かな水」といった幸運に恵まれた面もあります。しかし、それを単なる「運」で終わらせず、昭和初期から一貫して財政を確立し、住民に還元し続けてきた先人たちの「経営判断」の勝利でもあります。
私が「ニホンノチカラ」で成し遂げたいのは、こうした地方のポテンシャルを、ただの「データ」で終わらせないことです。 長泉町のように、自分たちの強みを理解し、それを戦略的に伸ばしていく自治体が増えれば、日本は必ず再生します。アメリカが羨むような「豊かで温かい、自立した地域」を作れるはずだと確信しています。
「長泉町は、他が簡単に真似できるモデルではないかもしれません。でも、ここにある情熱と合理性は、日本の希望そのものです」
担当者の方にそうお伝えし、私は次の目的地へと向かいました。 長泉町の、あのしなやかで力強いエネルギーを背中に受けながら。
豊かな水資源を象徴する「鮎壺の滝」
長泉町の情報まとめ
静岡県の東部、愛鷹山の東麓に位置する、人口約4.3万人の町です。三島市や沼津市に隣接し、東海道新幹線三島駅へのアクセスの良さから、人口増加を続ける「元気な町」として全国から注目されています。
産業: 豊かな湧水を利用した多様な工業が発達しています。「東レ」や「旭化成」などの大手企業が拠点を構え、化学、食品、医療、紙など幅広い業種が立地。特定の産業に依存しない強固な財政基盤を誇ります。
文化・観光: 広大な敷地に美術館や文学館が点在する「クレマチスの丘」や、鮎坪の滝などの豊かな自然が魅力です。現在は、県立がんセンターを中心とした「ファルマバレープロジェクト(医療城下町)」が進行しています。
グルメ: 愛鷹山の斜面で栽培される「長泉メロン」や、独特の粘りが特徴の「長和山芋(ながわやまもも)」、ブランド牛の「あしたか牛」などが有名です。特に山芋は贈答用としても高い人気を誇ります。
今回お話を伺った方
静岡県長泉町 産業振興課 ご担当者様 長泉町の産業支援や企業誘致を最前線で支えるスペシャリストです。町の歴史的な財政基盤から最新の人口動態まで精通されており、長泉町がなぜ「選ばれる町」であり続けているのかを、丁寧かつ熱意ある言葉で解説してくださいました。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。








