福岡市のベッドタウン・粕屋町で見た「持続可能な地域交通」と「子育て支援」の底力
粕屋町(福岡県)ーー1718ニホン探索(65/1,718)
AIオンデマンドバス「のるーと かすや」
こんにちは。「地方発!日本再生」を目指して全国1,718市町村を巡るプロジェクト、「1718ニホン探索」。
今回、私が足を踏み入れたのは、65番目の訪問地となる福岡県「粕屋町(かすやまち)」です。福岡市の東側に隣接し、近年ベッドタウンとして目覚ましい発展を遂げているこの町。実は、人口約5万人を数え、日本全国にある「町」の中でも屈指の規模を誇ります。地方都市が人口減少に頭を悩ませる中、なぜこれほどまでに若い世代を引きつけるのか。今回はその謎を解き明かすべく、粕屋町役場の都市計画課にお邪魔し、同町が誇る最新の地域交通イニシアチブについてお話を伺ってきました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Yeah, Uh, Check it. 福岡のすぐ隣、だけどここが俺らの最前線。 ただのベッドタウン?いや、分かってねぇな。 進化を止めん街、粕屋町。 Ready go. 天神・博多へもサクッとアクセス なのに緑も豊かで ストレスはノンレス 乗るぜJR福北ゆたか線、香椎線 交差する未来、ここが生活の最前線 「あそこ、ばり住みやすからしかよ」って噂 いや、住んでみ? 噂以上に最高の街やん 子供の笑い声、響く公園 ここで育つ未来、俺らが応援 未来へ繋ぐステップ、進化するマチ 変わらぬ温もり、繋がるイノチ どこに行くと? どこでも行けるさ 粕屋の空に、夢を描くのさ Fly high, 最高のMy town ここで生きる、俺らのアンサー 時代は令和、進化のスピードは加速 待っとくだけのバスなら、もう過去 スマホで呼べば、すぐそこに参上 AIオンデマンド「のるーと粕屋」が誕生! 「これ、ちかっぱ便利やん!」ってじいちゃんも笑顔 最先端の技術で、みんなを支えよう 交通のインフラ、ガッチリ強化 町民の足元、照らすこの評価 お年寄りからキッズまで、置いてきぼりはナシ それが粕屋スタイル、優しさのカタチ 未来へ繋ぐステップ、進化するマチ 変わらぬ温もり、繋がるイノチ どこに行くと? どこでも行けるさ 粕屋の空に、夢を描くのさ Fly high, 最高のMy town ここで生きる、俺らのアンサー 利便性だけやない、人の心が生きとる。 「のるーと」に乗って、明日へ向かうバイ。 愛しとるよ、粕屋町。 Yeah, Big up Kasuya Town. Peace out.
課題を先進の技術で解決する。AIオンデマンドバス「のるーと かすや」の衝撃
私が今回の取材で最も注目していたのが、昨年11月に導入されたばかりのAIオンデマンドバス「のるーと かすや」です。
私自身、かつてユーグレナの創業期に日本全国の地方を車で回り、クロレラを販売していた原体験があります。四国、中国、九州の津々浦々を訪れる中で目にしたのは、公共交通機関の維持が困難になり、お年寄りが病院や買い物に行けなくなるという「移動の自由」の喪失でした。日本全体が直面するこの構造的課題に対し、粕屋町は非常にスマートな一手を打っていました。
お話を伺った都市計画課のご担当者様によると、以前は町営の「ふれあいバス」という固定ルートの循環バスが運行されていたそうです。しかし、決まった路線を一方向にしか進まないため利便性が低く、利用客は減少。さらに全国的なドライバー不足が追い打ちをかけ、運行の維持自体が危ぶまれていました。そこで町民アンケートを実施し、思い切って路線を固定しないオンデマンド形式へと舵を切ったのです。
この「のるーと かすや」の仕組みは実に見事です。利用者がアプリやLINE、あるいは電話で「ここからここへ行きたい」と予約すると、AIがリアルタイムで最適なルートを計算し、乗り合い形式で目的地まで送り届けてくれます。
町内に設定されたミーティングポイント(停留所)は、なんと約168箇所。これによって、既存の鉄道や路線バス網がカバーしきれなかった「ラストワンマイル」を網羅しています。運行台数は平日5台、土日3台。平日の方が需要が高いのは、仕事や通院、日々の生活の足として完全に定着している証拠です。
驚いたのは、その人気の高さです。「今すぐ乗る」という即時予約が取りづらいほど利用率が高く、高齢者層はもちろんのこと、子育て中のお母さんが子どもを塾に送る際や、学生が一人で移動する時など、幅広い世代に愛用されています。
粕屋町には生活に必要な店が充実。町民は「のるーと かすや」で買い物に出かける事が出来ます。
「中型免許で運転できる」という、採用ハードルを下げる逆転の発想
経営者としての視点から私が深く感銘を受けたのは、この事業が「ドライバー確保のしやすさ」まで緻密に計算されている点です。
従来の大型路線バスを運行するには、当然ながら大型二種免許が必要となり、採用のハードルは極めて高くなります。しかし「のるーと かすや」で使用されているのは、8人乗りのワンボックス(ワゴン)タイプ。中型免許で運転が可能なため、一気に雇用ターゲットの裾野が広がります。人口が集まる粕屋町だからこそ、この「採用のハードルを下げる」という逆転の発想が功を奏し、ドライバー不足という難局をクリアしていました。
現在はまだ人間が運転していますが、ご担当者様は「ゆくゆくは自動運転なども実装できたら便利ですね」と未来を語ってくださいました。今の時代に必要な先進的な姿勢を、この粕屋町の行政インフラにも強く感じた瞬間でした。
「駕与丁公園」は、バラ園や子供向けの遊具、湖の周りを歩ける「遊歩道」等、市民の憩いの場となっています。
「町内に6駅」という圧倒的優位性と、全国1位に輝いた子育て支援
インタビューを終えた後、私は町内の視察へと向かいました。事前に調べて気になっていた、美しい池とバラ園が広がる「駕与丁(かよちょう)公園」を散策し、地域で愛される「江頭製パン」で美味しいパンをいただきました。公園ではシニアの方々がランニングを楽しみ、小さな子どもを連れた母親たちが笑顔で遊んでいました。その光景を見て、この町の活気の源泉がどこにあるのかを確信しました。
粕屋町の最大の強みは、その圧倒的な「交通の利便性」にあります。なんと、このコンパクトな町の中に「6つ」もの鉄道駅が存在するのです。中心となる長者原(ちょうじゃばる)駅からは、九州の心臓部である博多駅までわずか10分足らず(2〜3駅)。隣接する他の町には駅を持たない自治体もある中で、この鉄道網の充実はベッドタウンとして群を抜いています。
福岡市内よりも地価が抑えられており、博多まですぐに出られる。だからこそ、結婚を機にこの町に移り住み、マイホームを構える若い子育て世代が後を絶たないのです。
さらに、行政側もこの波を逃さず、子育て支援に圧倒的な熱量を注いでいます。町が制作したPR動画、卵の殻をかぶったピンク色の可愛いキャラクター「かすたまちゃん」が登場する「子どもの泣き止ませ動画」は、全国の自治体プロモーション動画のコンテストで見事1位を獲得したそうです。ただの観光アピールではなく、今まさに育児に奮闘している親たちの痛みに寄り添い、「実用性」を持って町をPRする。この柔軟でキャッチーな仕掛けは、私たちがユーグレナ時代に「ミドリムシ」という言葉をあえて前面に出して世間の認知を広げた戦略にも通じるものがあり、思わず膝を打ちました。
視察を終えて
今回の粕屋町訪問は、私にとって非常に大きな収穫となりました。地方創生を語る時、私たちはどうしても「過疎化が進む村をどう救うか」という文脈に終始しがちです。しかし、この粕屋町のように、大都市の成長エネルギーを吸収しながら、独自のスマートな行政手腕(AI交通の導入や、実利的な子育て支援)によって独自のコミュニティを盤石にしている「最旬のベッドタウン」のあり方もまた、これからの日本再生における重要なモデルケースです。
利便性と自然の豊かさが調和し、テクノロジーが人々の「移動の自由」を守る。粕屋町には、日本の地方が目指すべき「持続可能な豊かさ」のひとつの完成形がありました。
最後に、私はさらに町内を深く知るため、九州最大級の商業施設である「イオンモール福岡」や、町の歴史の深さを物語る「歴史資料館」、そして古代の息吹を伝える「阿栄観蓋石(あえかんきがいせき)」などの遺跡群へと足を運びました。この地で育まれた文化と、これからの未来を創る若々しいエネルギー。その両方を肌で感じながら、次の旅へと向かいたいと思います。
歴史ある粕屋町には、それを感じ取れる施設が複数あります。
粕屋町の情報まとめ
福岡県の筑豊地方へと続く交通の要衝、福岡都市圏の東部に位置する、人口約5万人の都市。福岡市のベッドタウンとして急速に発展しており、全国の「町」の中でもトップクラスの人口規模を誇る。国指定史跡である「江辻遺跡」や「阿栄観蓋石」など、古くから人々が定住してきた豊かな歴史的背景を持つ。町内には広大な駕与丁池を中心とした駕与丁公園があり、春には桜、初夏には数千株のバラが咲き誇る憩いの場として広く知られている。
産業:福岡市の経済圏に完全に組み込まれており、製造業や流通業の拠点が多数立地する。九州最大級のショッピングモール「イオンモール福岡」を擁し、商業活動が極めて活発である。
文化・観光:駕与丁公園のバラ園が有名。また、町の歴史を深く学べる「粕屋町歴史資料館」や、古代の巨石遺構である「阿栄観蓋石」など、歴史的な観光スポットも点在する。
グルメ:地域に根差した「江頭製パン」などのローカルフードが人気。福岡市に近いことから、洗練されたカフェや多様なジャンルの飲食店が軒を連ね、豊かな食文化を形成している。
今回お話を伺った方
福岡県粕屋町 都市計画課 ご担当者様 粕屋町の快適な住環境と持続可能な都市基盤を支える中枢部署。住民の利便性向上とドライバー不足という地域課題の双方を解決するため、旧来の町営「ふれあいバス」の廃止と、AIを活用した最新のオンデマンド交通「のるーと かすや」の導入を主導。データに基づく効率的な運行管理と、住民に寄り添った丁寧な普及活動により、幅広い世代に愛される新しい地域の足を作り上げている。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。












