くだものの里から日本の未来を耕す――長野県松川町が挑む「公民学」の教育イノベーション
松川町(長野県)ーー1718ニホン探索(64/1,718)
長野県松川町 北沢秀公(きたざわひできみ)町長
「くだものの里」松川町。冬のシーズン以外は常に果物狩りができる街。写真はサクランボ(7月上旬迄)。
「地方発、日本再生!」――この人生をかけたミッションを胸に、私が全国1,718の市町村を巡る旅「1718ニホン探索」。64番目の訪問地として足を運んだのは、南信州の美しい自然に抱かれた、長野県松川町です。
町制70周年を迎えた松川町は、全国的にも「くだものの里」としてその名を知られています。今回は、現町長の北沢秀公さんと対談させていただき、この町の持つ底力と、これからの地方創生における極めて重要なヒントを伺うことができました。さらに、対談の後半で話題に上った松川高校での先進的な取り組み「社会とつながる教室」を担当されている、町役場出身で現在はまちづくり会社を経営する新井直彦氏にもお話を伺う機会を得ました。熱い情熱が交差した、その濃密な取材の模様をお届けします。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Yeah... Welcome to the Fruit Paradise. 南信州、中央と南のアルプスが仕切るナイスな景色。 聞こえるかい?風の音。 松川町から、おいでなんしょ! 朝もぎの果実 光るサンシャイン ここはくだものの町 おもてなしのサイン 春から秋まで途切れぬライン 冬以外いつでも 果物狩りタイム! サクランボにマスカット ブルーベリーの粒 モモにナシ、ブドウ どれもがファーストクラス だけど真打ちはやっぱりリンゴだに! ひとくち齧れば 広がるシンフォニー 「これ、うまいもんで食べてみやぁ」って じいちゃん、ばあちゃんが笑顔で言うて 真っ赤に実ったリンゴの蜜 これは自然がくれた、秘密のレシピ おいでなんしょ 松川の街へ アルプスの合間 風が吹き抜け 汗をかいたら 信州まつかわ温泉 湯脈の恵み 癒やしの源泉 寄ってきにゃぁ みんなでステップ踏んで orchards(果樹園)の香りを胸に吸い込んで ココロもカラダも 満たされてく 松川のFlowは 明日へ続く ちょっと歩けば 緑のカーペット 清流のせせらぎが BGMのターゲット あちこちの農園 家族の笑顔 この町にくりゃ 誰もが主役(ヒーロー) 遊び疲れたら 向かうはあそこ 「清流苑」でひと風呂 これ最高 町営温泉 極上の湯加減 露天から見る山々 マジでハンパねぇ お肌もツルツル 「贅沢だにぃ」 湯上がりの五平餅 頬張る旅 贅沢な時間が ゆっくり流れる 都会のノイズも ここでは忘れる 厳しい冬を越えて また春が来りゃ 花が咲き誇り 実を結ぶストーリー この土地に根ざした 人の温もり ずっと変わらない 誇りの灯り おいでなんしょ 松川の街へ アルプスの合間 風が吹き抜け 汗をかいたら 信州まつかわ温泉 湯脈の恵み 癒やしの源泉 寄ってきにゃぁ みんなでステップ踏んで orchards(果樹園)の香りを胸に吸い込んで ココロもカラダも 満たされてく 松川のFlowは 明日へ続く りんごの香りに包まれて。 温泉の湯気に癒やされて。 また来やぁね。 待ってるもんで。 Peace out... 松川町、Big Up!!
気候変動をブランドに変える、誇り高き「くだものの里」
松川町に一歩足を踏み入れると、目の前に広がるのは美しい河岸段丘の風景です。標高450メートルから850メートルに位置するこの地形は、非常に水はけが良く、稲作よりも果樹栽培に圧倒的な適性を持っています。6月のさくらんぼを皮切りに、ブルーベリー、桃、プルーン、梨、そしてリンゴと、冬以外のグリーンシーズンには常に何らかの果物狩りが楽しめるという、まさに「フルーツのパラダイス」です。
驚いたのは、その歴史の深さと、時代の変化に立ち向かう農家の方々の姿勢です。特に二十世紀梨の栽培は100年以上の歴史を誇り、かつては鳥取県に匹敵するほどの収穫量を誇っていたそうです。しかし現代、農業は地球温暖化という大きな気候変動の影響を受けています。松川町でも看板商品であるリンゴ(ふじ)の栽培に影響が出始めているとのこと。
ですが、松川町の強さはここにあります。北沢町長は「温暖化をただ嘆くのではなく、ここ10年ほどはシャインマスカットなどのブドウ栽培に力を入れ、気候変動を新しいブランド作りに活かしている」と力強く語ってくださいました。ピンチをチャンスに変えるこの柔軟なマインドこそ、私がかつてアメリカ留学で学び、ユーグレナの危機を乗り越える中で培ってきた「ポジティブシンキング」の本質そのものです。専業の果樹農家さんに後継者がしっかりと育っているケースが多いというお話にも深く納得しました。農業が経済的に自立し、魅力ある産業として誇り高く維持されている証拠です。
また、松川町は工業の町という側面も持っています。古くから精密機械を中心とした企業誘致が行われており、多くの優良企業が拠点を置いています。その理由は、精密機械に不可欠な「質の良い水」が豊富にあること。この豊かな自然環境と「ものづくり」の文化が一次産業にも波及し、果物資源を活かした「シードル」など、高品質な加工品ブランドの誕生に繋がっている点も、非常に先進的だと感じました。
メインのりんご狩りは品種によって8月~。もなりんでは、シーズンの果物やジュースなどの加工品が購入できます。
「関係人口」という新しい絆と、ふるさと創生の遺産
人口減少という現代日本の構造的課題に対し、松川町ではユニークなアプローチを展開しています。象徴的なのが、町営の温浴・宿泊施設「清流苑」です。これは平成元年の「ふるさと創生1億円事業」の際、町民アンケートで1位だった温泉と2位の宿泊施設を形にしたもの。町営でありながら高級旅館のような洗練された雰囲気があり、隣接する「フォレストアドベンチャー」やキャンプ場、テニス場、プール等のスポーツ施設と合せて、エリア一帯で素晴らしい集客を実現しています。
さらに、昨年立ち上げた移住促進サイト「のらくら」を通じた空き家対策だけでなく、町長が強調されていたのが「関係人口」の創出です。単に移住者を増やすだけでなく、東京から毎月バスで訪れるような二拠点居住的な繋がりを持つ人々を大切にする。農業の担い手不足に対しては「地域おこし協力隊」を活用し、3年間の研修を経てすでに約10名が就農・独立を果たしているといいます。地域外の力を巻き込むこの仕組みは、まさにニホンノチカラが目指す「地方の隠れた宝を再編集し、世界へ届ける」という思想と完全に合致しています。
町営温泉「清流苑」
松川高校で取り組んでいる「公民学」の「社会とつながる教室」
そして、今回の訪問で私が最も魂を揺さぶられたのが、町内唯一の高校である「松川高校」を舞台にした教育改革です。
町長は「大人が人生を楽しんでいる姿を見せることが、子供たちが町に帰ってきたいと思うUターン促進の鍵だ」と仰いました。その言葉通り、町が積極的に関与し、「公民学」の連携によって高校生に「未来の多様な可能性」を感じ取ってもらう為の独自のプログラムを導入しています。
ここでバトンを引き継ぐ形でお話を伺ったのが、コーディネーターの新井直彦さんです。新井さんが担当する「社会とつながる教室」の「出会う授業」では、女優や、SpaceXの関連事業で人工衛星の部品製造を行う企業、フィジーの社会起業家など、驚くほど多様でエッジの効いた大人たちをゲストに招いています。生徒たちが自分の「好き」や「興味」を見つけるきっかけを作るためです。
実は、このお話を聞いた瞬間、私は自分の過去の経験がフラッシュバックしました。かつて私は石垣島で、地元の子供たちの可能性を広げるために、民間教育支援を行っていました。当時、「島には何もない」と諦めていた子供たちに、地域の歴史や産業を学んでもらい、それを軸に商品企画を行う「事業立案」を行ってもらったのです。地場企業を巻き込み、「美島商娘」のロゴ入りドレッシング等を開発して実際に販売したり、展示会に出たりしてもらいました。その経験を通じて、子供たちは目の色が変わり、「自分でも何かできるんだ」という自信と地元愛が芽生えたのを横で見てきました。
松川高校で行われている「やってみる授業」も、まさにそれと同じ、あるいはそれ以上の熱量を持っています。今年度は「ドローン」をテーマに15時間のプログラムを実施しており、プロの操縦士を招いて、単に飛ばすだけでなく、10年後の社会実装(除草剤散布や太陽光パネルの赤外線点検など)を考えさせるビジネス視点の教育を行っています。偏差値や学力だけではない、地域活動を通じた「成功体験」の提供。これこそが、これからの日本を支える人材を育てる最高のアプローチです。
役人出身でありながら誰よりも柔軟な発想を持つ北沢町長と、新井さんのような熱い伴走者がガッチリと組んでいる松川町。そのリーダーシップの質の高さに、私は深い感銘を受けました。
別れ際、新井さんから「ぜひ福本さんも、今後の『出会う授業』に登壇して若者たちに刺激を与えてほしい」とのオファーをいただきました。日本の未来のための子供たちへの教育活動は、私のやりたいことの一つ。「喜んで!」と即答させていただきました。
次の10年で、この松川町の若者たちの中から、日本を、そして世界を驚かせる「アントレプレナー」が誕生することを期待せずにはいられません。
「清流苑」の周辺にあるスポーツ施設、アスレチック
松川町の情報まとめ
長野県の南信州地方に位置する、人口約1.2万人の町。天竜川が流れる豊かな河岸段丘の地形を活かした果樹栽培が非常に盛んで、「くだものの里」として全国的に知られている。歴史ある二十世紀梨の栽培をはじめ、リンゴ、桃、ブドウなど、グリーンシーズンを通じて多種多様な果物狩りが楽しめる。また、清らかな水資源を背景とした精密機械工業などの製造業も発展しており、農業と工業がバランスよく融合した活力ある地域づくりが進められている。
産業:河岸段丘の水はけの良さを活かした梨・リンゴ・ブドウなどの果樹農業。また、豊富な水資源を活かした精密機械を中心とする工業誘致や、果物資源を用いたシードル等の加工品開発。
文化・観光:ふるさと創生事業から生まれた町営の温泉宿泊施設「清流苑」をはじめ、「フォレストアドベンチャー」やキャンプ場など、豊かな自然を体感できるレジャー。
グルメ:秋の味覚の王様である「松茸」の料理や、地元の新鮮な完熟フルーツ、そして地域のワイナリーや醸造所で造られる高品質なシードルやワイン。
今回お話を伺った方
北沢 秀公(きたざわ ひできみ)氏 長野県松川町長。役人出身としての豊富な行政経験に基づいた確かな手腕と、前例にとらわれない柔軟な発想力を併せ持つ。町制70周年を迎えた松川町の舵取りを担い、気候変動を見据えた農業のブランド化や、移住促進サイト「のらくら」の立ち上げによる関係人口創出を推進。特に「公民学」が連携した先進的な高校教育改革に強いリーダーシップを発揮している。
新井 直彦(あらい なおひこ)氏 松川町出身・在住。合同会社ロボウノイシ代表社員。自治体職員として地域創生や社会教育に携わった後、独立してまちづくり会社を起業。長野県立大学地域コーディネーターなどを歴任。「心動かされるコト」を起点に、松川高校でのアントレプレナーシップ教育やドローンを活用した探究活動など、若者のプロジェクトへフル伴走する支援を行っている。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。













