126年の歴史を紡ぐ「廃校活用」の最高峰。千葉県鋸南町が証明した、地方自立への執念

鋸南町(千葉県)ーー1718ニホン探索(50/1,718)

廃校跡地のリノベーションで注目されている「道の駅 保田小学校」

全国1,718の市町村を巡り、地域の「隠れた宝」を発掘する「1,718ニホン探索」プロジェクト。記念すべき「50市町村目」の節目として私が訪れたのは、千葉県の内房に位置する「鋸南町(きょなんまち)」です。

今回、取材にご協力いただいたのは、鋸南町役場地域振興課まちづくり推進室のご担当者様。全国の自治体や関係者が視察に殺到する、地方創生の象徴的モデル「都市交流施設・道の駅 保田(ほた)小学校」の取り組みを中心に、町の現状と未来への挑戦について、熱いお話を伺いました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

南房総、潮風の香る街
鋸山(のこぎりやま)のふもとから、うちらの声届けるよ
ちっとんべぇ(ちょっとだけ)聞いてかない?
Welcome to KYONAN town!
Let's go!

青い海と緑のグラデーション
ここは鋸南、癒やしのロケーション
元名(もとな)の海岸、夕日がエモい
水仙の香りに包まれて、みんな笑顔がこぼい(眩しい)
「おんび(あさっぴら)」から「ばんげ(夕方)」まで
魅力が詰まってて、まじで飽きねぇ
頼朝が逃れて一歩を踏み出した
歴史の街で、うちらも明日(あした)へJumpするんだわ!
チャイムが鳴れば 始まるストーリー
廃校から生まれた 街のグローリー
「保田小学校」 思い出の教室(クラス)
未来へ繋ぐ 奇跡のピース
(Welcome back!) 懐かしい廊下を歩けば
(Yeah yeah!) 新しい夢が芽吹くよ
おいでよ鋸南、うちらの誇り!

少子化で閉校? そこで終わんねぇ!
大人たちの本気、まじ半端ねぇ!
黒板も跳び箱もそのままリノベート
教室に泊まれる、最高のアップデート
二宮金次郎もびっくりな変身
直売所(ばざーる)の野菜、新鮮で前進
「温故知新」を地で行くスタイル
仕かけた大人たち、まじリスペクト、スマイル!
給食メニューで乾杯(Kanpai)
「これ、うんめぇから食ってみな!」って、お節介も愛(Ai)

チャイムが鳴れば 始まるストーリー
廃校から生まれた 街のグローリー
「保田小学校」 思い出の教室(クラス)
未来へ繋ぐ 奇跡のピース
(Welcome back!) 懐かしい廊下を歩けば
(Yeah yeah!) 新しい夢が芽吹くよ
おいでよ鋸南、うちらの誇り!

鋸山を背負って、うちらは歌う
この街の未来、キラキラ光る
「あったかいから、いっぺん来いよ!」
保田小で待ってるかんね!
鋸南町、最高!
Peace!

日本の縮図――「消滅可能性」に直面した町の覚悟

鋸南町が置かれている現状は、まさに「日本の地方が抱える課題の縮図」そのものです。 町の人口は1953年の約1万5,000人をピークに減少を続け、現在は6,000人強。推計では「2035年には千葉県内で最も人口が少ない自治体になる」とされています。5年間での人口減少率が10%を超えるという、非常に厳しい局面に立たされています。

かつては近隣自治体との合併も検討されたそうです。しかし、「合併して周辺部になってしまえば、地域の活力が完全に失われてしまうのではないか」という強い危機感から、鋸南町は「自立の道」を選択しました。

そこからの町の歩みは、まさに執念です。職員の人件費カットや徹底した歳出削減を行い、財政再建を断行。自らの力で未来を切り拓くための足腰を鍛え上げました。そうして生まれた財政的・精神的な原動力を注ぎ込んでスタートしたのが、2014年3月に少子化のため126年の歴史に幕を閉じた「保田小学校」の跡地活用プロジェクトだったのです。

「道の駅 保田小学校」では、教室での宿泊、温浴、体育館をリノベしたマーケットでの買い物、学校メニューの食事等が体験できる。保田小学校ブランド製品もがず多くある。

驚異の財政スキームと、元校舎を活かした空間デザイン

私が現地を訪れて何より驚いたのは、その空間の圧倒的な魅力と、驚くほど緻密に計算された「財政スキーム」です。

廃校を道の駅へ転用するための当初の整備費用は、ハード・ソフト合わせて約13億円。一見、人口数千人の町にとっては巨額の投資に見えます。しかし町は、農林水産省の補助金(約3億5,000万円)を戦略的に獲得し、さらに後々その7割を国が普通交付税で措置してくれる「過疎対策事業債」などを巧みに組み合わせました。その結果、最終的な町の実質負担額は、わずか「約5億円」にまで抑えられたのです。

この賢明な投資によって生まれ変わった施設は、見事というほかありません。 かつてのノスタルジックな雰囲気を残したまま、旧校舎の教室は「宿泊施設」や「個性豊かな商店」へと姿を変え、広大な体育館は活気あふれる「直売所」へと見事に改装されています。

さらに2023年には、隣接していた旧保田幼稚園・保育園の跡地も約9億4,000万円を投じて拡張整備(こちらも町の実質負担は約3億2,000万円)。子供向けの素晴らしい複合遊具や、新たな飲食街を備えたスペースとしてリニューアルオープンしました。私が訪問した際も、地元の子供たちや観光客の家族連れが笑顔で遊び回っており、あまりの心地よさに「次は自分の子供と一緒に絶対に泊まりに来よう」と心から思ったほどです。

鋸山から眺めた「鋸南町」。6000人の街の施設に年間90万人の来場、6500人の宿泊を実現。地方創生の取り組みとして各地が参考にすべき事例。

年間売上10億円。地域経済を回す「好循環の芽」

「保田小学校」は、単なるおしゃれな観光施設ではありません。地域経済に凄まじいダイナミズムをもたらしています。

現在、施設全体の年間売上高は「約10億円」に達し、その半分以上となる約5億5,000万円を直売所が占めています。年間利用客数は約90万人。年間約6,500人がこの学校に「宿泊」しており、町の人口を遥かに超える交流人口を創出しています。

特筆すべきは、地域への直接的な還元度合いです。 施設全体で約80名の雇用を生み出しており、その大半が地元住民のパート採用。過疎化が進む町において、貴重な「働く場」となっています。さらに、地元の農家さんたちで構成される出荷組合の売上は1億円を突破。これまで農協などに出荷していなかった家庭菜園レベルの小規模農家の方々が、「保田小学校ができたから、少し規模を拡大して出荷してみよう」と、生き生きと農業に励む好循環が生まれているのです。これこそが、私が理想とする「地方創生」の姿です。

運営を担う指定管理者は、ビジネスホテル「ドーミーイン」などを全国展開する共立メンテナンスグループの「共立ソリューションズ」。開業初期のイニシャルコスト支援(約4,000万円)を除けば、現在は町からの指定管理料の支払いは発生していません。民間企業の高いマーケティング力と洗練されたブランディングセンスを導入し、行政の持ち出しなしで持続可能な運営体制を築いている点も、実に見事です。

鋸南町には保田小学校以外にも見所が多く、都心からも近い為お勧めの観光地。

編集後記:次なる10年へ――地方の宝を世界へ解き放つ

鋸南町には、冬でも積雪がほとんどない温暖な気候、高級旅館を支える天然温泉、そして江戸前のアジや干物、お花の産地としての豊かな農産物があります。また、象徴的な観光資源である「鋸山(のこぎりやま)」や「日本寺(にほんじ)」の境内の大部分もこの鋸南町側に位置しており、富津市と並ぶ強力な観光アセットとなっています。

今回、保田小学校の取り組みを肌で感じ、私は確信しました。人口減少という「地方の逆風」は、地域の知恵と、民間活力を巻き込む確かな戦略、そして何よりも「我が町を自立させる」という強い意志があれば、必ず「変革の追い風」に変えることができるのだと。

「保田小学校」という素晴らしい地域の核を得た鋸南町が、今後さらにダイレクトに町の税収や定住・関係人口の増加へと結びつけていくために、これからも力強く町政を進めていくのを応援していきたいと心から思いました。

鋸南町の皆さま、素晴らしいお話を本当にありがとうございました!

鋸南町の情報まとめ

千葉県の房総半島南部、内房地域に位置する、人口約6,200人の町。見返り美人の図で知られる浮世絵師・菱川師宣の生誕地であり、古くから歴史と文化が息づく。温暖な気候に恵まれ、「水仙の町」としても有名であり、元名海岸や保田海岸といった美しい海岸線、そして町を象徴する名峰・鋸山など、豊かな自然環境を活かした観光業が盛んである。近年は廃校を活用した「道の駅 保田小学校」が全国から注目を集めている。

産業:温暖な気候を活かした花卉(かき)栽培や果樹などの農業、内房の豊かな海を舞台にした沿岸漁業が中心。また、観光・サービス業が地域経済を支える。

文化・観光:富津市との境に位置する「鋸山」には、関東最古の勅願所である「日本寺」があり、日本一の大仏や「地獄のぞき」が観光客を魅了する。「道の駅 保田小学校」は都市交流の新たな拠点。

グルメ:勝山漁港や保田漁港で水揚げされる新鮮なアジ(黄金アジ)のフライや刺身、伝統的な干物などの海鮮グルメが絶品。また、温暖な土地が育むフルーツや、地元の特産品を使ったスイーツも人気。

今回お話を伺った方

鋸南町役場 地域振興課 まちづくり推進室 ご担当者様 過疎化と少子高齢化が進む鋸南町において、持続可能な地域社会の実現を目指し、日々奮闘する。126年の歴史を持つ旧保田小学校の閉校(2014年)を機に立ち上がった廃校活用プロジェクトに深く関わり、国の補助金や過疎債を組み合わせた精緻な財政スキームの構築や、民間企業(共立メンテナンスグループ)との指定管理者連携を推進。年間90万人を集める「道の駅 保田小学校」への再生を成功させ、現在は周辺の幼稚園跡地への拡張を含めた、さらなる交流人口拡大と地域雇用の創出、農業振興に尽力している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。