地方都市が生き残るための「組織変革」――鹿児島県日置市で見た、束になって戦う生存戦略
日置市(鹿児島県)ーー1718ニホン探索(70/1,718)
吹上浜
島津義弘公の銅像に迎えられる「伊集院駅」
大都市のベッドタウンという「便利さ」は、見方を変えれば、人材も、経済も、すべてをブラックホールのように吸い取られてしまう危機と隣り合わせであることを意味します。「1718ニホン探索」の70番目の訪問地として私が訪れたのは、鹿児島県日置(ひおき)市。鹿児島市から電車でわずか20分という抜群のアクセスを誇るこの街は、今、ベッドタウンとしての安泰に甘んじることなく、自らの力で生き残るための壮大な組織変革に挑んでいました。
今回、日置市役所の地域共創課を訪ね、担当課長にお話を伺いました。そこから見えてきたのは、少子高齢化という構造的課題に直面する日本各地の地方都市が、今すぐ取り入れるべき究極の生存戦略でした。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Yo, Check 1-2. 薩摩の西、風が吹く街。 歴史の鼓動、今も鳴り止まぬ鼓動。 (Ah yeah...) 懐かしい風と、新しい夢。 ここがウチらのホームグラウンド、日置(HIOKI)。 いくが(行くぞ)! 日置の未来へ、Ready go! ここは日置、島津義弘のド根性 敵中突破の「敵前チェスト」の精神、今も本場所 関ヶ原の伝統、妙円寺詣り(みょうえんじまいり) 歩き抜くタフなソウル、ウチらの誇り 400年紡ぐ 苗代川(なえしろがわ)の炎 薩摩焼の美、土に込めたエモーション 戦国から現代、繋ぐこのタスキ ガタガタ言うな、お前もついてき(来いよ)! ちょっと待って、ウマいもんも忘れないで? 江口浜の波しぶき、夕日に揺れて あがったばかりのシラス、口に運べば最高 伊集院の街、歩けば笑顔になれるよ お腹がすいたら、せっせと「伊集院まんじゅう」 吹上(ふきあげ)の温泉で、心も体もリフレッシュ 「わっぜ(とても)」 気持ちよかね、この街の空気 誰もがみんな、一瞬で好きになる街 あたたかい風が吹く(日置の街で) 歴史のパズルが、今ひとつに繋がっていく (Yeah, 繋がっていく!) 「おじゃりやせ(ようこそ)」の声が響く場所 あなたと私で、新しい明日を作ろう 響け、この熱い鼓動! 過去だけじゃない、未来へのアプローチ 「ひおき共創コンソーシアム」がチームのコーチ 産・学・官、みんながスクラム 地域の課題、ガチで解決企む(Yeah) ひとりとひとりが、手を取り合えば(Yeah) 「わっぜ(すごい)」化学反応、生まれるから よそ者も、若者も、みんながプレイヤー 日置のポテンシャル、ぶち上げるネクストステージへ! 「だいやめ(晩酌)」しながら語る未来のビジョン みんなの笑顔が、ウチらのミッション! あたたかい風が吹く(日置の街で) 歴史のパズルが、今ひとつに繋がっていく (Yeah, 繋がっていく!) 「おじゃりやせ(ようこそ)」の声が響く場所 あなたと私で、新しい明日を作ろう 響け、この熱い鼓動! 「チェスト!」と叫んで、一歩前へ出ろ 「おやっとさあ(お疲れ様)」って、包み込む優しさ 誇り高き歴史、東シナ海の夕日 すべてが宝物、ウチらの誇り 繋がれ、広がれ、ひおきの輪! あたたかい風が吹く(日置の街で) 歴史のパズルが、今ひとつに繋がっていく (Yeah, 最後にブチ上げろ!) 「おじゃりやせ(ようこそ)」の声が響く場所 あなたと私で、新しい明日を作ろう 響け、この熱い鼓動! 日置の風、未来へ吹いてる。 共創のスピリット、絶やさず進む。 「愛しちょっど(愛してるよ)、日置」 Yeah. これからもずっと。 Peace out.(日置、最高!)
20年で1万人減少という「静かなる危機」に立ち向かう
日置市の現在の人口は約4万5000人。しかし、過去20年間で7000人が減少し、これからの20年でさらに1万人が減少して3万5000人にまで落ち込むと予測されています。人口減少の坂道は、これからさらに急になっていくのです。死亡による自然減は構造的に避けられないからこそ、市は移住による「社会増」の実現にすべてを賭けています。
データを見ると、明確な光と影が映し出されていました。光は、0歳から4歳の子育て世代の流入です。現市長の永山由高さんが掲げた「こどもまんなか宣言」のもと、保育拠点を大胆に整備したことで、子育て世帯が日置市を選び始めています。これは本当に素晴らしい傾向です。
しかし、深刻な影は15歳~24歳の層。進学や就職を機に、若者たちが一気に街を離れていくのです。「一度外に出た若者が、戻ってきたいと思える受け皿が街にあるか?」これこそが、日置市が突きつけられている本質的な問いでした。
「オフィスワークがない」という雇用のミスマッチを埋める
なぜ若者が戻らないのか。ハローワークのデータを見ると、地方特有の構造的な課題が浮かび上がってきました。建設土木や現場の仕事では圧倒的に人手が足りていない一方で、若者や女性が求める「事務職」や「営業職」といったオフィスワークの求人が致命的に不足しているのです。
このミスマッチを解消するため、日置市は「本社機能の誘致」に舵を切り、すでに12社ほどが応じています。その筆頭であり、街のキープレイヤーとなっているのが「小平株式会社」です。LPガス販売という地域密着のインフラを母体としながら、貿易やIT、さらには民間主導のまちづくりにまで挑戦している創業114年の老舗企業です。
私はこの話を聞いたとき、ハイクロレラ時代に車で西日本全域を回り、地方の厳しい現実と可能性の双方を見てきた実体験を思い出しました。地方を救うのは、既存の枠組みを飛び越える「地域企業の変革」です。地域の老舗企業が、人口減少を「我が事」として捉え、自ら新しい雇用を生み出しにいく。その熱量が日置市には確実に芽生えています。
2024年に本社を日置市に移設した「小平株式会社」
城山公園から見た日置市街地
湯之元温泉
労働慣習をブチ破る「ひおき共創コンソーシアム」の衝撃
そして、私が今回の取材で最も感銘を受けたのが、2025年12月に設立された「ひおき共創コンソーシアム」という取り組みです。現在24社が参画し、市役所の職員を含めると、なんと約4000人の従業員がこのネットワークに繋がっています。街の人口の約10%、家族も含めれば市民の3割近くに影響が及ぶ、まさに「オール日置」の巨大な実験場です。
このコンソーシアムの根底にあるのは、元国連の田瀬和夫氏の提言から得た「一人一人が個人として大切にされ、ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)であること」という理念です。
地方の企業にありがちな、昔ながらの地方の企業にありがちな、古い労働慣習のままでは、若者からも女性からも見放されてしまいます。大手企業と給与水準や条件面で競っても勝てない地方中小企業だからこそ、「働きやすさ」や「個人の尊重」という価値観で選ばれる先進地になろうという、極めて本質的な挑戦です。
素晴らしいのは、日置市役所自身も「街で最大の事業所(1000人規模)」として、自らを一企業と位置づけ、民間と同じ立場で首を揃えて学び、変わろうとしている点です。行政が上から目線で指導するのではなく、一緒に汗をかいている。私がアメリカ留学時代に培った、多様な価値観を認め合いフラットに繋がるコミュニケーションの重要性を、まさに体現している組織だと感じました。
島津義弘公の菩提寺跡である「徳重神社」
小松帯刀(小松家)の墓地
市街地以外は緑に包まれている日置市
チームビルディングからAI、匿名ケアシステムまで
コンソーシアムの動きは驚くほど具体的でスピーディーです。
「未来の求人票」の作成: 給与や条件だけで比較される待つだけの採用を止め、社長の想いや具体的なキャリアパスを言語化し、価値観で一本釣りするためのツールを開発しています。
新入社員の横の繋がり: 各社に入社した数少ない同期たちを孤立させないよう、「フォレストアドベンチャー・吹上浜」を活用した大自然でのチームビルディングや、BBQを通じた交流を実施。地域全体で同期を育てる仕組みを作っています。
本気のリスキリング:株式会社Schooと連携し、市長・副市長をはじめ9社43名が半年間にわたり「AI活用」などの最先端テーマを本気で学びました。
さらに私が驚いたのは、医療専門家にLINEで匿名相談ができる「THE CARE」というサービスの導入です。地方の中小企業の中には人事部がない企業もあり、プライベートや仕事の悩みを相談したくてもできないことも少なくありません。そこを、街全体の予算や企業版ふるさと納税を原資にすることで、参画企業の負担ゼロで実証実験(1年間の実証事業)を行っています。「パートナーとの関係性」や「育児の悩み」など、社内には絶対に言えないリアルな相談が月に30〜40件も寄せられているといいます。このガス抜きができる環境があるだけで、どれだけの若者が救われていることか。これぞ、束になって戦うコンソーシアムの真骨頂です。
取材を終えて
「日置市なら、自分らしく働き続けられる」 「日置市の企業なら、良い人材が採れる」
そんなブランディングが確立されたとき、大都市のベッドタウンという地方都市の景色は、180度変わるはずです。
取材後、担当課長のお心遣いもあり、幸運にも永山由高市長にご挨拶する機会をいただきました。若きリーダーが強い危機感を持ち、行政と民間を一つのチームとして編み上げている日置市。ここには、地方が生き残るための「あがき方」の最高の手本がありました。
日置市の皆さん、素晴らしいお話をありがとうございました!「ニホンノチカラ」を信じて、私の1,718 市町村を巡る旅はまだまだ続きます。
美山地区は薩摩焼の窯元の集積地。また、お洒落なカフェ等が集まる街でもあります。
日置市の情報まとめ
鹿児島県の薩摩半島西海岸に位置する、人口約4万5000人の都市。日本三大砂丘の一つである「吹上浜」の美しい海岸線や、戦国武将・島津義弘公を祀る徳重神社など、豊かな自然と深い歴史を併せ持つ。鹿児島市のベッドタウンとして発展しつつも、400年以上の歴史を誇る「薩摩焼」の郷・美山など、独自の文化が色濃く残る街である。
産業: 農業ではイチゴやオリーブの栽培が盛ん。製造業では、伝統的な薩摩焼の窯元が多数集積するほか、老舗の焼酎蔵や段ボール製造、エネルギー関連企業など、独自の基盤を持つ地域企業が活躍している。
文化・観光: 妙円寺詣りで知られる戦国島津の歴史文化や、美山の窯元巡りが有名。また、広大な東シナ海に面した吹上浜や、湯之元温泉・吹上温泉といった名湯が、訪れる人々を癒やしている。
グルメ: 吹上浜で獲れる新鮮な海の幸、ブランド豚などの肉料理が絶品。また、日置市発祥の「湯之元せんべい」や、地域の豊かな水を活かして造られる本格芋焼酎は、外せない地元の逸品である。
今回お話を伺った方
日置市 総務企画部 地域共創課 担当課長 日置市の脱炭素政策や「ひおき共創コンソーシアム」など、日置市の成長戦略ともいえる施策を牽引する中心人物。「ひおき共創コンソーシアム」の立ち上げ・運営においては事務局として奔走し、若者・女性との対話会の実施や市内企業におけるエンゲージメント向上、次世代の人材育成、地域ぐるみでの相談システムの構築などを推進。行政という枠組みを超え、市役所自らも「一企業・学び手」として民間企業とフラットに学び合う姿勢で、日置市を「”ここでなら、働き続けたい”と思える働き方先進地」へと導くための現場指揮を執っている。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。














