筆の里に息づく、一本の筆に込めた誇りと挑戦

熊野町(広島県)ーー1718ニホン探索(96/1,718)

熊野町(広島県)の現地取材写真
熊野町(広島県)の現地取材写真(2)

毎年9月23日に開催される「筆まつり」

「1718ニホン探索」の旅、96番目の訪問地となったのは、日本一の生産量を誇る「筆の里」として知られる広島県熊野町だ。

広島市、呉市、東広島市という主要都市の中間に位置し、車で20〜30分ほどでアクセスできるこの町は、令和2年に熊野トンネルが無料化されたこともあり、広島市のベッドタウンとして子育て世代の転入が増加している。しかし、この町の最大のアイデンティティは、何といっても「熊野筆」という圧倒的なブランド力にある。人口約2万3000人のうち、なんと約2000人が筆産業に従事しているというから驚きだ。町を歩けば、至る所に筆に関連する企業やモニュメントが目に飛び込んでくる。

今回、熊野町役場の産業観光課の責任者様にお時間をいただき、町の歴史や筆産業の現状について深くお話を伺うことができた。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yeah... 広島 熊野町
日本一の筆先、描き出すストーリー
Listen!

よう来んさったな、安芸の山あい
霧が晴れたら 筆の里の舞台
どこを見ても Brush! 職人の技
世界に誇る 熊野筆の数々じゃ
「でな、ほいじゃけん」語るプライド
一本に込める魂とマインド
筆の里工房 本館の響き
歴史と伝統、今に継ぐ息吹

筆鳴らす beatに乗せてゆけ
熊野の魂、天まで届け
書いて、描いて、心をつなぐ
日本一の筆先が明日(あす)を拓く
筆の里! 熊野 town!
オレらの街、揺るぎない Sound!

新しく出来た 創作館のドアを開け
自らの手で生み出す、新たな世界へ
毛筆に画筆、職人の手ざわり
そのクオリティは、まさに otherworldly
そして秋の風、10月3日からスタート
11月15日まで、見逃すなアート!
テレビの人気番組、「プレバト展」が上陸
全国から人が集まる、最高のトピックじゃけん

「いらんこと言わんで、まぁ見てみぃ」
この街のパワー、舐めとったら痛い目見るで
山に囲まれたオアシス、豊かな自然
誇り高きこの地に、鳴り響くサイレン(Beats)

筆鳴らす beatに乗せてゆけ
熊野の魂、天まで届け
書いて、描いて、心をつなぐ
日本一の筆先が明日(あす)を拓く
筆の里! 熊野 town!
オレらの街、揺るぎない Sound!

そうじゃ、ここがオレらのホームタウン
熊野町から世界へ飛ばすぜ、この Sound
ほいじゃまたな! Peace out...


江戸時代末期から続く「熊野筆」の歴史と世界への飛躍

熊野の筆作りの歴史は江戸時代末期に遡る。農閑期に奈良や有馬へ筆作りを習いに行ったのが始まりで、戦後、多くの地域で筆作りが衰退・変化していく中、熊野町だけは独自の技術を守り抜き、生産量日本一の座を守り続けてきた。書道筆だけでなく、近年では化粧筆の分野でも世界的なブランド力を確立している。

特に有名な「白鳳堂」の化粧筆は、パリコレやハリウッドに進出し、さらにはなでしこジャパンが国民栄誉賞の副賞として贈られたことで、その名は世界的なものとなった。町では、この伝統産業を次世代に継承するため、教育にも力を入れている。一般的な学習指導要領では小学3年生から始まる書道の授業を、熊野町ではなんと1年生から実施しているという。そのため、移り住んできた人々も、子どもたちが非常に綺麗な字を書くことに驚かされるそうだ。

熊野町(広島県)の現地取材写真:江戸時代末期から続く「熊野筆」の歴史と世界への飛躍
熊野町(広島県)の現地取材写真:江戸時代末期から続く「熊野筆」の歴史と世界への飛躍(2)
熊野町(広島県)の現地取材写真:江戸時代末期から続く「熊野筆」の歴史と世界への飛躍(3)

9月23日に「筆の里工房」に新たな体験交流施設「創作館」がオープン。

活気あふれる「筆の里工房」と新名所「創作館」の魅力

取材当日は、ちょうど「筆の里工房」で10月3日から始まるテレビ番組コラボの「プレバト展」の準備が進められており、現残念ながら地下の展示施設は見る事が出来なかったが、筆の里工房には、人間が書くには巨大すぎる全長3.7メートルの「世界一の筆」がモニュメントとして展示されているほか、全国でも珍しい、11名の伝統工芸士が交代で毎日筆作りの実演を行う「筆司の家」が設けられている。

また、筆まつりの開催に合わせてオープンしたばかりの「創作館」では、絵本作家と子供たちがコラボレーションした作品が展示されており、訪れる人々が筆を使った創作体験を楽しめるスペースも用意されていた。

熊野町(広島県)の現地取材写真:活気あふれる「筆の里工房」と新名所「創作館」の魅力

筆塚

熊野町(広島県)の現地取材写真:活気あふれる「筆の里工房」と新名所「創作館」の魅力(2)

熊野本宮神社

熊野町(広島県)の現地取材写真:活気あふれる「筆の里工房」と新名所「創作館」の魅力(3)

町役場の筆のモニュメント

仿古堂会長が語る職人技と、町が抱えるこれからの課題

さらに、町内にある老舗「仿古堂」の代表取締役会長である丹波宏様にもお話を伺うことができた。筆の駅にあるアートギャラリーの経緯や、実際の工房の様子を見せていただきながら、熊野筆が持つ圧倒的な技術力の高さと、職人たちの熱い想いを肌で感じることができた。手作業で一本一本丁寧に作られる筆の奥深さに、日本のものづくりの真髄を見た気がする。

一方で、全国的に「熊野筆」の名前は広く知られているものの、「広島県の熊野町」という地理的な認知がまだ十分に浸透していないという課題も伺った。三重県の熊野古道と混同されることも少なくないという。だからこそ、こうした工房や体験施設、そして魅力的なイベントを通じて、実際に足を運んでもらい、町のストーリーを肌で感じてもらうことが何よりも大切だと痛感した。

一本の筆に宿る誇りを胸に、次なる街へ

夕方までの時間を利用して、「筆の駅」や「筆会館」を巡り、最後には自分への旅の記念と家族へのお土産として、地元の極上の筆を購入して熊野町を後にした。車で少し走れば便利な都市機能がありながらも、町全体が一つの伝統工芸の誇りと共に生きている。そんな温かくも熱気あふれる熊野町の挑戦に、大きな刺激を受けた一日となった。

熊野町(広島県)の現地取材写真:一本の筆に宿る誇りを胸に、次なる街へ
熊野町(広島県)の現地取材写真:一本の筆に宿る誇りを胸に、次なる街へ(2)
熊野町(広島県)の現地取材写真:一本の筆に宿る誇りを胸に、次なる街へ(3)

創業120年の老舗「仿古堂」が運営する「筆の駅」と自社工房&ショップ

熊野町の情報まとめ

広島県の南部、広島市・呉市・東広島市の中間に位置する、人口約2万3千人の町。広島市のベッドタウンとして宅地開発が進む一方で、江戸時代末期から続く「熊野筆」の産地として世界的に知られ、町全体が筆文化とものづくりの誇りに満ちている。

産業:筆の生産量が日本一であり、人口の約1割が筆関連産業に従事する。伝統的な書道筆に加え、海外のハイブランドやハリウッドでも高く評価される高品質な化粧筆の製造が大きな強みとなっている。

文化・観光:日本一の筆のモニュメントや実演を見られる「筆の里工房」をはじめ、創作体験ができる「創作館」、観光情報等が集まる「筆の駅」など、筆をテーマにした観光スポットが充実。毎年9月23日には90回以上の歴史を誇る「筆まつり」が開催される。

グルメ:豊かな自然とアクセスの良さを活かした地元ならではの食文化に加え、広島市内や近隣都市へのアクセスが良好なため、瀬戸内の新鮮な海の幸や山の幸を近隣エリア含めて幅広く楽しむことができる。

今回お話を伺った方

熊野町役場 産業観光課 責任者様 熊野町の基幹産業である筆産業の振興や、観光客誘致、「筆の里工房」「創作館」などの施設運営を通じて、町の魅力を国内外へ発信する中心的な役割を担う。

株式会社仿古堂 代表取締役会長 丹羽宏様 伝統的な熊野筆の技術を守り、時代に合わせた製品づくりやアートギャラリーの運営など、文化の継承と新たな価値創造に尽力する業界の重鎮。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。

福本拓元(株式会社ニホンノチカラ代表)