標高差1,700メートルが生む奇跡。ワインと高地トレーニングで「関係人口」を増やす東御市の経営センス
東御市(長野県)ーー1718ニホン探索(59/1,718)
ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーのぶどう畑から眺める東御市内の風景
芸術むら公園の明神池
全国1,718の市町村を巡り日本の底力を発掘する「1,718ニホン探索」プロジェクト。記念すべき長野県への初上陸の地として私が選んだのは、浅間山系の美しい稜線を望む東御市(とうみし)です。
取材にご対応いただいたのは、農林課および企画振興課の熱意あふれるご担当者の皆様。さらに、今回の視察にあたっては、株式会社マジックシールズの幹部お二人、そして身体教育医学研究所の所長に多大なるお力添えをいただきました。この場を借りて心より感謝申し上げます。
東御市に一歩足を踏み入れて驚かされたのは、その圧倒的な「標高差」です。市内で最も低い千曲川沿いが標高430メートル、最高点が2,200メートルと、実に1,700メートル以上の高低差があります。今回、この特異な地形をダイナミックな強みへと昇華させた、実に「経営者目線」の素晴らしい地方創生の現場を目の当たりにしました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
東の御(み)と書いて 東御(とうみ) 浅間サンライン 抜ける光 千曲川(ちくまがわ)が繋ぐ ストーリー 寄ってっとくれや、こっちのほうに! (Wow Wow… 東御 da block!) (Wow Wow… 陽が昇る街!) Yo、まずはココがどこだか言ってみろ 年間日照量 トップクラスの郷 雨は少ねえが 愛は溢れてる ヴィンヤードのブドウが ほら色づいてる 日本初のワイン特区、誇り高きステップ メルロー、シャルドネ、グラスを満たすスペック 一口飲めば 誰もが言うぜ「うから(最高)」 このテロワール、世界へ向けたアンセム! ちょっと待って、ワインだけじゃな〜いじ? 東御の宝、忘れちゃ困るじ! パキッと割ったら 溢れる実 日本一の「くるみ」の集積地 おやつには おはぎ、それとも巨峰? お腹が空いたら「くるみ蕎麦」で決まりっしょ! 海野宿(うんのじゅく)の街並み、江戸の風情 歩けば心が 落ち着くだね 東の御と書いて 東御 浅間サンライン 抜ける光 千曲川が繋ぐ ストーリー 寄ってっとくれや、こっちのほうに! ワインの香りに 酔いしれる夜 くるみを齧って 明日(あした)へ跳ぶ ここが俺らの 帰る場所ずら 東御の空に 架かる虹のアーチ 「ねえ、週末はどこ行く?」 「決まってんだろ、湯の丸高原でチル!」 「標高高くて、夏でも涼しいね」 「高地トレーニング、身体も研ぎ澄ませ」 遊び疲れたら、芸術の館(芸術むら公園) アートに触れて、最後は温泉(湯楽里)で温まろ! 都会のノイズに 疲れたらおいで 「こっちこっち!」手招くよ、おいでなして 変わらない自然と 変わっていく未来 織りなすカルチャー、他に類は見ない 頑固な職人が 醸す一滴 私たちの毎日、それが奇跡 「だもんで」みんな、この街が大好きだじ! 東の御と書いて 東御… (ブドウの畑に、風が吹き抜ける) くるくる回る、時代の風車… (海野宿の灯りが、ぽつりと灯る) また来(き)ましょ、この街へ。 東御市、Yeah。 (じいちゃんもばあちゃんも、みんなでピース)
15軒のワイナリー、経営者は全員「市外からの移住者」
東御市は2008年に「ワイン特区」の認定を受けました。その原点となったのが、エッセイストであり東京からの移住者でもある玉村豊男氏が立ち上げた「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」です。
「日本ではワイン用ブドウなんて育たない」と言われていた常識を、玉村氏が見事に覆しました。東御市がブドウ栽培に最適な理由は、内陸部特有の「圧倒的な少雨」と「長い日照時間」、そして「激しい昼夜の寒暖差」です。隣接する軽井沢が湿度の高い気候であるのに対し、東御市は浅間山系などに遮られ、乾いた風が吹き抜けるカラッとした気候。この環境こそが、ブドウの病気を防ぎ、凝縮感のある果実を育てる一等地だったのです。
現在、市内には15軒のワイナリーが存在しますが、なんとその経営者は全員が市外からの移住者。まったく異なる経歴を持ちながらも、これまでの蓄えと情熱を注ぎ込んで参入した方々ばかりです。市内には民間のワイン学校「千曲川ワインアカデミー(アルカンヴィーニュ)」があり、栽培から醸造、経営までを一気通貫で学べる環境が整っています。
ワイン特区の制度を活用し、2,000リットルという小規模から醸造できる利点がある一方、原料ブドウは近隣から調達せねばならない制約もあります。しかし、だからこそ地域に密着した多様な「個人のこだわり」がボトルに詰まる。一軒一軒でまったく異なる個性を持つ東御のワインは、SNSなどを通じてコアなファンを惹きつけ、収穫期には全国からボランティアが自発的に集まるほどの熱量を生んでいます。
ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー創業者の玉村豊男氏が「ワイン特区」となった東御市のワイン産業を引っ張ってきた。
標高1,700mの頂に、日本最高所の「アスリートの聖地」を創る
東御市のもう一つのダイナミックな挑戦が、湯の丸高原における「高地トレーニング拠点化」です。
現市長が地方創生の二大巨頭として推進したこのプロジェクトは、標高1,700メートル以上の高地に、日本最高所となる陸上トラックや水泳プールを整備するというもの。水泳プールはJOC(日本オリンピック委員会)の認定施設にもなっており、まさに国を代表するトップアスリートたちがしのぎを削る聖地となっています。
実業団のGMOインターネットグループのトップチームが毎年合宿に訪れ、ニューイヤー駅伝に出場するような選手たちがここで肺機能を鍛えています。高地トレーニングの効果を持続させるには「高所で寝泊まりすること」が不可欠であるため、山頂付近の宿泊施設や合宿所は、シーズン中常に予約で埋まるほどの活況を呈しています。
湯の丸高原は「高地トレーニング」の聖地。
くるみ菓子で人気の「花岡」
アトリエ・ド・フロマージュには屋根にやぎが。
経営者感覚を持った首長が、地域を「沈没」から救う
人口約2万8千人の東御市も、例に漏れず緩やかな人口減少の波に直面しています。しかし、ワインとスポーツという明確なエッジを立てたことで、一時的な観光客ではない、熱量の高い「関係人口」が増加しています。
私が視察の途中に立ち寄った「アトリエ・ド・フロマージュ」という有名なチーズ工房では、屋根の上でヤギが草を食むという、驚くほどユニークで美しい光景に出会いました。平日にもかかわらず、駐車場は神奈川や湘南といった県外ナンバーの車で満車状態。軽井沢の別荘族がシーズン中に回遊してくる動線が完全に見えていました。県内の観光施設の中でもトップクラスの集客力を誇るこの賑わいは、一朝一夕でできたものではありません。
実は、東御市の現市長ご自身も山口県からの移住者であり、お菓子会社を率いていた「経営者」という経歴の持ち主です。
役所の現場の皆様からは「民間出身のアグレッシブな市長なので、ついていく我々は本当に大変です(笑)」という本音も。しかし、私はそれこそが素晴らしい行政の姿だと強く確信しています。
世界で勝つ一流の民間企業が常に死に物狂いであるように、地域のリーダーがアグレッシブにリスクを取って動かなければ、地方都市は静かに沈没していくだけです。これほど明確なコンセプトを打ち出し、ものの10〜20年で「よそ者」を巻き込んで街の構造を変革した東御市の行政運営には、日本の地方創生を大逆転させるヒントが詰まっています。
私の原点である「地方発!日本再生」。まさにその理想の種が、ここ東御市の美しい傾斜地で芽吹いていました。
北国街道の宿場町として栄えた『海野宿』。
東御市の情報まとめ
長野県の東信地方に位置する、人口約2万8千人の都市。平成16年に東部町と北御牧村が合併して誕生した。千曲川が流れるなだらかな南斜面に街が広がり、標高430mから2,200mという広大な標高差が生み出す豊かな自然環境と、全国トップクラスの晴天率・少雨という気候特性を活かした独自のまちづくりを展開している。
産業:内陸部の乾燥した気候と強い日照時間を活かした農業が盛ん。巨峰をはじめとする生食用ブドウの栽培で培った技術をベースに、近年は「ワイン特区」を活用したワイン用ブドウ栽培とワイナリービジネスが急成長を遂げている。
文化・観光:エッセイスト・玉村豊男氏のワイナリーをはじめとする15軒の個性的ワイナリーが点在する。また、標高1,700mの湯の丸高原には日本最高所の全天候型高地トレーニング施設があり、JOC認定の陸上・水泳拠点としてトップアスリートが集まるスポーツ観光のメッカでもある。
グルメ:生産量日本トップクラスを誇る大粒で殻が薄い特産の「信濃くるみ(菓子くるみ)」や、それを使った伝統のくるみそばが有名。また、屋根の上のヤギがトレードマークの「アトリエ・ド・フロマージュ」が手掛ける絶品の手作りチーズやピザ、スイーツも全国にファンを持つ。
今回お話を伺った方
東御市役所 農林課 & 企画振興課 ご担当者の皆様 東御市の強みである「標高差」を活かした地方創生ビジネスの最前線を支えるプロフェッショナル。民間出身の現市長が掲げるアグレッシブな行政方針のもと、2008年に認定された「ワイン特区」の振興や移住推進、そして湯の丸高原における高地トレーニング施設の運営管理に奔走する。市外からの移住ワイナリー経営者やトップアスリートたちに寄り添い、関係人口の拡大へ向けて情熱的に日々の業務へ取り組んでいる。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。














