11年連続「社会増」を誇るほどよい田舎に学ぶ、官民連携の移住エコシステム

安曇野市(長野県)ーー1718ニホン探索(60/1,718)

雪の残った北アルプスと田園風景(5月頃)

大王わさび農場

「地方発!日本再生」を掲げ、全国1,718の市町村を巡る私の旅も、今回で60番目の節目を迎えました。訪れたのは、北アルプスの壮大な山々を背に抱く、長野県安曇野(あづみの)市です。

取材の前、私はまず「大王わさび農場」へと足を運びました。どこまでも透明な湧き水がせせらぎ、青々と育つわさび。そこでいただいたプレミアムわさびの突き抜けるような香りと爽やかな辛みに、五感が震えるような感動を覚えました。10代の頃にアメリカに渡り、日本の豊かな自然や繊細な食文化の「価値」を客観的に再認識した私ですが、この安曇野の美しさはまさに世界に誇るべき日本の宝そのものです。

今回は、そんな安曇野市で「移住・定住施策」の最前線に立つ、移住定住推進課のお二人のご担当者様にお話を伺いました。なぜこの地が多くの人を惹きつけるのか、その強烈な「ニホンノチカラ」の源泉に迫ります。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Ah, Yeah... Welcome to the Clear Blue Area.
常念(じょうねん)の風、感じて。
Everything is gonna be alright.
ずく出して、行こう。
準備はいい?いくよ!

朝もやの 常念岳(じょうねんだけ) 仰ぎ見る 
澄み切った空気、深呼吸で始まる 
湧き水キラリ、万水川(よろずいがわ) の流れ 
クリアなハート、誰も邪魔はさせない 
大王わさび農場、緑の絨毯 
おざんざ食べて、心も充電 
信州そば の香り、風にのって 
うちらのステップ、誰も止められんって!

東京からあずさでビューンとひと飛び 
だけどここは別世界、夢の桃源郷
穂高神社 で静かに手を合わせたら 
新しい明日のページ、開く気がするの

見上げてごらんよ、この青い空を 
北アルプスの雪解け水が 
うちらの未来、潤していくから 
「お出かけですか?(おでかけだかい?)」 笑顔で声をかけて 
安曇野の風に吹かれながら 
ずっと変わらない、この場所で歌うよ 
(Yeah, うちらの生き方...)

秋になれば実るよ サンふじ、シナノゴールド 
シャキッとひとくち、甘みは最高級 
天蚕(てんさん)の糸 みたいに繊細で強く 
織り成すカルチャー、伝統をフック 
国営アルプスあづみの公園 で休息 
光の祭典、夜は胸が躍る 
三郷(みさと)のリンゴ、明科(あかしな)のニジマス 
魅力がありすぎて、もう 
鼓動が止まらない
「〜だじ」「〜だ好(こ)」 って使う方言 
ちょっぴり照れるけど、それがうちらの誇りだから 
温泉郷で心も体も癒やされたなら 
悩みなんて全部、水に流しちゃおう

見上げてごらんよ、この青い空を 
北アルプスの雪解け水が 
うちらの未来、潤していくから 
「そうだじ?」 って頷く君の横顔 
安曇野の風に吹かれながら 
ずっと変わらない、この場所で歌うよ

「へぇ、ずく出していかんかいね」 
絵本のような街、ちひろ美術館 
道祖神(どうそじん)が見守る、いつもの帰り道 
夕暮れ、オレンジに染まる山並み 
ここがうちらのホーム、誇り高き地。

見上げてごらんよ、この青い空を 
北アルプスの雪解け水が 
うちらの未来、潤していくから 
「お出かけですか?」 笑顔で声をかけて 
安曇野の風に吹かれながら 
ずっと変わらない、この場所で歌うよ

Yeah... 安曇野、Clear Blue Water. 
リンゴの甘み、わさびのツンとした刺激。 
全部忘れない。 
「また来ましょ(またこいましょ)」 
Thank you, Big Up Azumino City! 
Peace out...

11年連続の「社会増」を支える専門部署設置という市の決断

多くの地方自治体が人口減少に頭を悩ませる中、安曇野市は平成27年からなんと11年連続で「社会増(転入者が転出者を上回る状態)」を達成しています。年間の転入者は約3,200人。自然減をこの社会増が力強く補うことで、市全体の人口減少をわずか年400人程度の微減に食い止めているのです。

この数字の背景には、市としての確固たる「意志」がありました。国が地方創生を掲げた平成26、27年頃から本腰を入れ始め、令和4年度には「移住定住推進課」という専門部署を新設。それまでは政策部門が横断的に行っていた窓口業務を一元化し、相談体制から住まいの確保(空き家対策)までを一貫して支援する体制を整えました。

「独立した『課』として特化している自治体は珍しい。それだけ市が本気だということですね」と私が伝えると、担当者様は深く頷いておられました。

北アルプスの絶景と「ほどよい田舎」という絶対的価値

安曇野市の人気を支えるのは、何と言ってもその抜群の住環境です。 平地は標高約530メートル。夏は35度近くまで上がる日もありますが、都会のようなまとわりつく湿気はなく、カラッとしていて驚くほど過ごしやすい。そして「長野=豪雪地帯」というイメージを覆し、実は雪が非常に少ない地域でもあります。雪かきが必要なのはシーズンに1,2回程度でありながら、車を1時間も走らせれば白馬村などの世界的なスキー場へアクセスできる。この絶妙なバランスが、移住検討者の心を掴んでいます。

さらに、長野県2位の人口規模である松本市のベッドタウンとしての需要も高く、転入者の半分は県内からの移動、もう半分が関東圏・中京圏からの流入だといいます。都会で狭小住宅に追われる子育て世代が、「豊かな自然の中で子どもを育てたい」と、小学校入学などのタイミングで人生の舵を切るケースが増えているのもうなずけます。

北アルプスの雪解け水が生活を豊かに

大王わさび農場のほとりにある「水車」

蕎麦、わさび等の豊かな食環境も人気の理由

「役所は数年で異動するから」――先輩移住者へバトンを繋ぐリアルな絆

私が今回の取材で最も感銘を受けたのは、安曇野市独自の「移住者コミュニティを巻き込んだ相談体制」です。

安曇野市空き家バンクで利用できる最大60万円の改修補助金といったハード面の支援はもちろん手厚いのですが、地方移住の本質は「コミュニティへの定着」にあります。担当者様は、非常に率直で本質的な課題を口にされました。 「私たち市役所の職員は、数年で異動してしまいます。だから、私たちが窓口になって終わりではなく、移住された方が地域で長く付き合える関係性を作ることが重要なんです」

そこで市が取り組んだのが、先輩移住者が営むカフェやゲストハウスを「相談窓口」としてオフィシャルに活用する仕組みでした。「移住者のお店」をリスト化し、移住検討者が実際に宿泊したり、お茶を飲みに行ったりした際に、市民目線でのリアルな体験談(良いところも、大変なところも)を聞けるようにしたのです。

行政の限界を認め、地域の「人」という最高の資源へバトンを繋ぐ。この血の通ったネットワークこそが、移住後のミスマッチを防ぎ、新たな若い才能(自宅でアトリエやカフェを開くこだわり層)を呼び込む循環を生み出していました。

歴史に深く刻まれた「受け入れ」のDNA

地域の文化についても、大変興味深いお話を伺いました。 市民の憩いの場であり、毎月1日の「お一日(おついたち)」には境内を地域活動やマルシェに広く開放しているという「穂高神社」。この格式高い神社の山車(だし)は、なんと「船の形」をしています。海のない山岳地帯に、なぜ船なのか――。

実はその昔、九州の志賀島から日本海を渡ってこの地に定住した、海にゆかりのある人々の伝説に由来しているのだそうです。

この話を聞いた瞬間、私の胸は熱くなりました。安曇野という土地は、遥か昔から「外からやってきた人々」を受け入れ、その文化を融合させて発展してきた歴史がある。現代の「移住の聖地」としての包容力は、一朝一夕にできたものではなく、この大地に深く刻まれたDNAなのだと確信しました。

野生の蚕を用いた伝統工芸の拠点「天蚕センター」や、新宿中村屋の創業者・相馬氏がパトロンとなって支えた彫刻家・荻原碌山の「碌山(ろくざん)美術館」など、安曇野にはまだまだ語り尽くせない文化の厚みがあります。

アメリカに国力で遅れをとる悔しさを知る私だからこそ、こうした地方の「隠れた宝」を現代の形に再編集し、インバウンドも含めて世界に解き放ちたい。安曇野市の官民一体となった素晴らしい取り組みは、これからの「地方発!日本再生」に向けた大きな希望の光です。熱いお話をありがとうございました!

日本近代彫刻の先駆者・萩原碌山(守衛)の作品を展示している「碌山美術館」

毎月一日に「マルシェ」として市民に境内を解放している「穂高神社」

日本最大級のわさび園「大王わさび農場」

安曇野市の情報まとめ

長野県の北西部、中信地方に位置する、人口約9万3千人の都市。北アルプスの雄大な山々を望み、豊富な湧水による「大王わさび農場」をはじめとした美しい田園風景が広がる。高い移住・定住実績を誇り、「ほどよい田舎」として全国的にも人気の高い地域である。

産業: 豊かな湧水を利用したわさび栽培や、県内1位の作付け面積、収穫量を誇る米や、リンゴなどの農業が盛ん。また、電気機械や精密機械などの製造業も集積している。

文化・観光: 彫刻家・荻原碌山の作品を展示する「碌山美術館」、野生の蚕(天蚕)の伝統を引き継ぐ「天蚕センター」、海の歴史を伝える「穂高神社」など、独自の文化・歴史資産が豊富。

グルメ: 名水の恵みである「信州そば」や新鮮な「わさび」、名産のリンゴや地元のワイナリーが手掛けるワイン、郷土料理の「おやき」などが広く親しまれている。

今回お話を伺った方

安曇野市役所 移住定住推進課 ご担当者様 令和4年度に新設された「移住定住推進課」にて、安曇野市への移住相談および空き家対策・利活用施策を専門に担当。行政主導の支援メニューの枠にとどまらず、先輩移住者が営むカフェやゲストハウスと連携した「市民目線の相談体制」を構築。11年連続となる社会増の維持と、地域コミュニティに根差した持続可能な住まいづくりのために、日々現場で汗を流している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。