伝統と革新が交差する「西の都」で、観光の概念をひっくり返す「0.1%市民」が生み出す新しい京都の未来。
京都市(京都府)ーー1718ニホン探索(46/1,718)
京都市 松井孝治市長(左)
川床のある店舗が並ぶ「鴨川」沿いの景観
祇園 花見小路
「1718ニホン探索」のプロジェクトも、今回で46番目の訪問地を迎えました。今回私が足を運んだのは、誰もが知る日本を代表する古都、京都市です。
10代でアメリカに留学した際、私は外から客観的に見た日本の文化や歴史の美しさに深い感銘を受けました。その日本の美、伝統、精神性が最も濃縮されている場所こそが、この京都です。私自身、子どもの頃の観光から始まり、前職のユーグレナ時代、そして現在のニホンノチカラに至るまで、仕事やプライベートで数え切れないほど訪問してきた、特別な愛着のある街でもあります。
今回は大変光栄なことに、京都市長の松井孝治さんとの対談が実現しました。松井市長は2024年に当選されて以降、これまでの行政の枠組みにとらわれない柔軟で大胆な「新・京都戦略」を推進されています。
対談の場をセッティングするにあたり、大変なご調整をいただいた京都市役所の職員の皆様には、この場を借りて心より御礼申し上げます。皆様の温かいサポートのおかげで、これからの日本のインバウンド、そして地方再生のヒントに満ちた、極めて有意義な時間を過ごすことができました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Yeah... 京都、千年のプライド。 うちらの街へ、ようおこし。 歴史の風に乗せて、今、歌い出すさかい。 よう聞いとくれやす。 平安の風 今も吹く街 碁盤の目 歩けば 歴史の価値 清水の舞台から 飛び込む覚悟 四条・三条 景色は最高 金閣・銀閣 対の美学 龍安寺の石庭 静寂の数学 嵐山 渡月橋 揺れる竹林 千本鳥居 潜る 朱色の迷宮 京(きょう)の都は はんなりと おいでやす うちらの街へ 伝統と革新 織りなす西陣 千年の時を 刻むエンジン 雅なリズムで 心躍らして 京都の素晴らしさ 伝えさせておくれやす 祇園の石畳 下駄の音響き 舞妓さんの姿に 誰もが溜息 「おきばりやす」 その一言で シャンと背筋 伸びる気がするわ おばんざいの味 出汁の深み 抹茶に八ツ橋 甘い企み 湯葉に湯豆腐 鴨川のほとり 先斗町(ぽんとちょう)の夜 灯る明かり 五山の送り火 消えない誇り 四季折々の 美しい彩り 時代が変われど 心は一つ 「あてら、ここで生きてるんどす」 変わらぬ愛を 歌に乗せて 京の都は はんなりと おいでやす うちらの街へ 伝統と革新 織りなす西陣 千年の時を 刻むエンジン 雅なリズムで 心躍らして 京都の素晴らしさ 伝えさせておくれやす 最後は お茶でも 飲んでいかはりますか? またのお越しを 待ってま。 京都、最高どす。
「生身の市長」として、フラットに市民と向き合う理由
対談の冒頭、私は松井市長が自ら運営されているYouTubeチャンネル「松井こうじの部屋」に興味を持ち、その背景を伺いました。日本の大都市の首長が、自らこれほど精力的に動画メディアで発信している例は珍しいからです。
松井市長が掲げるのは、徹底した「対話型行政」です。
「京都は140万人以上の人口を抱える大都市ですが、中心部だけでなく、山科、洛西、伏見、さらには北部の山間地域まで、非常に多様な顔を持っています。だからこそ、私が直接現場に赴き、市民の皆さんの声を聞くリアルの対話が不可欠なのです」
そう語る市長は、その対話の様子を「見える化」するためにYouTubeを始められたそうです。今では機材を市で自前で購入し、将来的には若手職員が主役となって現場の声をインタビューするメディアへと発展させたいという構想を持たれています。
さらに、X(旧Twitter)やFacebookといった各種SNSでも、あえて政策以外の日常的な姿も発信していると言います。
「市長も一人の生身の人間です。ご飯も食べれば、コーヒーも飲むし、悩むこともある。スーパーマンではない私たちが、限られた財源や権限の中で、どうにか街を良くしようと奔走している姿をフラットに見てほしい。遠い存在ではなく、同じ目線で当事者意識を持って街を考えていきたいんです」
この「フラットな目線で対話する」という姿勢に、私は深く共感しました。私も経営者として、常に現場に立ち、社員や地域の皆さんと泥臭く対話することを原点としてきたからです。
市民目線の取り組み、京都への思い等、松井市長にたっぷりと熱く語って頂きました。
「新・京都戦略」が描く、有名観光地の先にある日常の魅力
松井市長が誕生した2024年以降、京都市は「新京都戦略」として3つの重点項目を掲げています。
①京都の本質的な価値、魅力の継承、②新たな京都を切り開く、③市役所、職員が変わる
この戦略の根底にあるのは、京都が持つポテンシャルの「再発見」です。市長は「京都にどっぷり浸かっている人ほど、その価値を当然視してしまっている」と指摘します。
例えば、京都に今も息づく「銭湯文化」。京都駅からほど近い場所にあり、若い運営者が引き継いで若者や旅人のコミュニティとなっている「サウナの梅湯」などを例に挙げ、単なる遺産ではなく、生活文化として残る価値の重要性を語られました。また、京都芸術センターをはじめとして、世界中のアーティストが「滞在して創作活動を行いたい街」として京都を選んでいる現状もあります。
「観光というと、清水寺や金閣寺、嵐山といった有名なスポットへのワンショット(一過性)の訪問になりがちです。しかし、本来の京都の魅力は、長期滞在して初めて見えてくる日常にあります。お気に入りの喫茶店を見つける、ライブハウスに行く、鴨川をジョギングする、京都一周トレイルで山を歩く。実は京都市の面積の約74%は森林なんですよ。そうした多彩な日常の魅力に触れてほしいのです」
私自身、今回の探索ではあえて観光客の少ないエリアも歩いてみましたが、どこを切り取っても奥深い歴史と人々の営みが感じられ、これこそが「本当の京都の深み」だと肌で感じました。こうした隠れた魅力を掘り起こし、民泊のような一過性の宿泊ではなく、町家に長期滞在して暮らすような仕組みを作ることが、伝統の職人技を次世代(あるいは海外)へ繋ぐ「京都学(学び)」の構想にも連動していくのだと、市長の熱いグランドデザインを伺うことができました。
銭湯「サウナの梅湯」。このような銭湯がいくつも残っているのも、京都の素晴らしいところ。
「洛西の竹の小径」嵐山の竹の小径と比べると、ゆっくりと竹林を楽しむことが出来る穴場スポットです。
北野天満宮への参道でもある「上七軒」。町屋風景をゆっくりと満喫できます。
オーバーツーリズムの克服と「0.1%市民」という新しい関係性
現在、京都を語る上で避けて通れないのが「オーバーツーリズム(観光公害)」の課題です。メディアでは時に排他的な報道も見られますが、松井市長の視点は極めて冷静かつ建設的でした。
「住民の皆さんが反発を覚えるのは、『自分たちは観光の恩恵を受けていないのに、混雑や騒音、ゴミの被害だけを一方的に被っている』と感じるからです。これらを解決するには、観光という概念そのものを転換しなければなりません。それが、来訪者にも少しだけ市民性を持ってもらう『0.1%市民(愛着人口)』という考え方です」
この「0.1市民」という言葉は、多くの方のご意見や審議会での議論を経て策定された「京都基本構想」から生まれたものだそうです。単に消費して帰る観光客ではなく、「この街が好きだから、少しでも貢献したい」というファンベースのコミュニティを国内外に広げていく試みです。
具体策として、京都市では宿泊税の大幅な引き上げ(見直し)に加え、「市民優先価格」の導入構想を進めています。
例えば市バスの料金(現行230円)について、財政的な維持のために本来は値上げが必要なところを、市民向けには200円に引き下げ、その差分を市民以外の来訪者に少し高めの料金(300円台など)で支えてもらう、という設計です。
「これは観光客を排除するための二重価格ではありません。『大好きな京都をより良く維持するために、少し多めに貢献して支える』という意識を持っていただくための仕組みです。この宿泊税や運賃の『配当』を、市民の皆さんがゴミ対策や文化財の維持、施設の割引という形で実感できるようになれば、観光客を迎える側の意識も、地域全体の豊かさへと変わっていきます」
さらに将来的には、交通ICカードとマイナンバーなどのインフラを紐付け、住民属性に応じた「ご近所割引(市民優先カード)」を導入することで、お気に入りの地元の飲食店に地域住民が入れなくなるといった摩擦を防ぐデジタル運用のアイデアも語っていただきました。
「清水寺」「金閣寺」「嵐山」全て素晴らしい観光地ですが、日常の中にこそ本当の京都の魅力があり、「0.1%市民」の発想は、観光客にもより京都に愛着を持って頂くという素晴らしい構想。
探索・対談を終えて:地方発、日本再生!への確信
人口減少が進むこれからの日本において、外からの活力を取り込むインバウンドは、国力を維持するための最大のチャンスです。しかし、それをただの「観光ブーム」で終わらせてしまえば、地域コミュニティとの摩擦を生むだけになってしまいます。
松井市長が語る「0.1%市民」を増やすアプローチ、そして観光の利益を制度によって地域住民へ利益還元させる仕組みは、まさに日本全国の自治体が直面する課題の羅針盤となる先進的な取り組みだと確信しました。
株式会社ニホンノチカラとしても、単に特産品を売るだけでなく、その地域固有の物語や日常の価値を「再編集」し、国内外のファン=愛着人口へと繋いでいくパートナーでありたいと強く思っています。京都というインバウンドのエースが見据える未来に、私も一人の「京都ファン」として、そして地方創生に挑む起業家として、これからも深く関わり、応援し続けていきます。
松井市長、そして市役所の皆様、本当にありがとうございました!
京都市の情報まとめ
京都府の南部に位置する、人口約140万人の政令指定都市。かつて千年以上もの間、日本の「都」として栄え、独自の格式高い宮廷文化や精神性を育んできた。市内には17の寺社・城郭が世界文化遺産に登録されており、国内外から年間数千万人の観光客が訪れる世界屈指の観光都市である。
産業:伝統的な西陣織や京友禅などの繊維産業、清水焼などの伝統工芸が息づく一方、高度な技術力を持つハイテク企業やITベンチャー、さらには多くの大学が集積する「学生の街」としての側面も持つ。
文化・観光:清水寺、金閣寺、伏見稲荷大社などの歴史的建造物が無数に点在。さらに近年は、町家を活かした滞在や、市内面積の約7割を占める森林部でのトレイルなど、日常の生活文化を体験する観光も注目されている。
グルメ:繊細な出汁の文化が光る「京料理」や「京菓子」に加え、実は学生街や職人の街として発展した背景から、独自の「珈琲・喫茶文化」や「ラーメン」「パン」の消費量が非常に多い先進的な食文化を持つ。
今回対談したリーダーのプロフィール
京都市長 松井 孝治(まつい こうじ)氏 1960年京都市生まれ。東京大学教養学部卒業。1983年に通商産業省(現・経済産業省)に入省。内閣官房参事官などを経て、2001年から参議院議員を2期務め、内閣官房副長官などの要職を歴任。その後、慶應義塾大学総合政策学部教授として教鞭を執り、行政学や公共政策の実務者教員として若手の育成に尽力。2024年2月の京都市長選挙にて当選し、第27代京都市長に就任。「対話型行政」を掲げ、伝統の継承と革新的な新京都戦略の推進に挑んでいる。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役/ニホン探索者。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。













