巨大インフラと高原野菜が支える、単独歩行の「たくましい村」

朝日村(長野県)ーー1718ニホン探索(63/1,718)

朝日村は自然豊かな人口4,000人の小さな村。

「本当にここを、日本列島を分かつ巨大なエネルギーが流れているのか」

車を停め、ファインダー越しに広大なレタス畑と、その向こうにそびえる山々を眺めながら、私は思わず息を呑んだ。畑の片隅、のどかな農村風景には不釣り合いなほど無骨な鉄塔と、複雑に交差する電線。実はこれこそが、東日本と西日本の電力を分かつ東京電力の変電所であり、日本の大動脈を支える超重要インフラなのだという。

一見、景観を損ねるようにも映るその異形。しかし、これこそがこの小さな村の財政を力強く支えている現実そのものだった。現地に足を運ばなければ絶対に分からない「ニホンのチカラ」のリアルな縮図が、そこにはあった。

私の人生をかけた新たな挑戦である「1,718ニホン探索」。63番目の訪問地として向かったのは、長野県のほぼ中央、松本盆地の南西端に位置する人口約4,100人の小さな自治体、朝日村だ。今回、取材にご対応いただいたのは、村の未来を背負う企画財政課のご担当者様である。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yeah, check 1-2, 1-2...
隣の村にも、街にも負けねえ
ここが俺らのフッド、Sun-Rise Village
美しき水の源、鎖川(くさりがわ)のせせらぎ
長野県朝日村からぶちかます
Are you ready? Let's go!

朝五時 起きれば霧が煙る
青い空の下で 命が芽吹く
日本一のレタス、シャキッとみずみずしい
この美味さ、一口食えば誰もが信じる(Yeah)

太陽の光を浴びて 育つグリーン
俺らのプライド、他にないクオリティ
汗水垂らして 耕すこの大地
裏切らねえ、これが俺たちの毎日

「おめえ、何しちょる?」って声が響く
近所のおじちゃん、おばちゃん、みんながLink
「これ食っていけや」って、おすそ分けのループ
愛が詰まってる、この最高のグループ(Village!)

朝日に照らされる 鎖川の流れ 
俺らの誇り、この胸の憧れ 
「ずく出して」行こうぜ、どこまでも高く 
朝日村のストーリー、未来へ描く 
緑に囲まれ、空を見上げて 
この場所から愛を、世界へ届けて

古宮遺跡から続く このタイムライン
歴史が息づく、ここは俺らのライン
縄文の風を感じて、今を生きる
都会の雑音に、もう流されやしねえ

冬になれば「なから」寒むなるけれど
心の芯は 誰よりもホット、燃えるドロ
「〜だに」「〜だで」って言葉が心地いい
お前も来ればわかる、この場所の居心地

あさひプライムスキー場、雪を切り裂け
夏のキャンプ場、星空を見上げ
自然と共生、これがマストのスタイル
誰もが自然と 溢れ出すスマイル

朝日に照らされる 鎖川の流れ 
俺らの誇り、この胸の憧れ 
「ずく出して」行こうぜ、どこまでも高く 
朝日村のストーリー、未来へ描く 
緑に囲まれ、空を見上げて 
この場所から愛を、世界へ届けて

都会のビル風じゃ 癒せぬ渇き 
ここにあるのは 贅沢な静寂と、確かな光 
「おいでなして」、いつでも待ってるでな 
俺たちの帰る場所、それが朝日村(Yeah, ずっと変わらねえ)

朝日に照らされる 鎖川の流れ 
俺らの誇り、この胸の憧れ 
「ずく出して」行こうぜ、どこまでも高く 
朝日村のストーリー、未来へ描く 
緑に囲まれ、空を見上げて 
この場所から愛を、世界へ届けて

長野県朝日村 
日本一のレタスの村 
鎖川の水が潤すフッド 
「また来ましょ!」
 Yeah... 
最高の村、朝日村。 
Peace out.

4,000人の村が「単独」で生き残るためのリアル

私自身、10代でアメリカに渡った際、異文化の中で初めて客観的に「日本の美しさやものづくりの質の高さ」を思い知り、確固たる自信を得た。しかし同時に、アメリカとの国力の差に激しい悔しさを覚えた。帰国後、ユーグレナを創業する前にクロレラの営業で西日本全域の地方をどさ回りで巡った時期がある。そこで目にしたのは、少子高齢化や若者の流出という、地方が抱えるあまりにも重い現実だった。だからこそ、人口4,000人規模の村がどうやって単独で生き残りをかけてもがき、闘っているのか、非常に強い関心を持っていた。

朝日村の現状も、決して楽観視できるものではない。年間で約50人もの人口が自然減などで減少している。かつて地域おこし協力隊が中心となって取り組んだ結婚相談事業も、「村内では顔見知りが多すぎて恥ずかしい」という心理的ハードルから利用者が伸び悩み、閉鎖に追い込まれたという。

しかし、この村はただ衰退を待っているわけではなかった。

「松本市や塩尻市といった近隣の都市から、子育て世代が移住してきているんです。世帯数はむしろ増加傾向にあります」

担当者様の言葉に、私は地方創生の確かなヒントを見た。朝日村は、松本空港まで車でわずか15分、松本市中心部へも車で20〜30分という驚くべき好立地にある。「田舎の情緒と、程よい利便性」。これがこの村の最大の武器なのだ。都市部では地価が高くて理想のマイホームを諦めざるを得ないファミリー層にとって、土地が安く自然豊かな朝日村は絶好の選択肢となる。

さらに村の支援も手厚い。新築の場合、土地と建物で最大100万円もの住宅補助金を支給している。この規模の自治体としては異例の額だ。人口維持を最優先事項とし、限られた財源をここに集中させる覚悟が伝わってくる。

2050年ゼロカーボンを掲げる朝日村の役場は、地熱や村の木材利用等、環境に配慮した建物になっている。

経済を動かす「グミ」と、地中熱が通う「庁舎」

産業に目を向けると、基盤である高原野菜のレタス農業が青々と広がっているが、それだけではない。村内を走っていると、大手菓子メーカー「カンロ」の大きな工場が目に飛び込んできた。聞けば、空前のグミブームを背景に、現在は工場の増設工事が猛烈な勢いで進んでいるという。松本・塩尻圏内から労働力を確保できる立地を活かした工場誘致。これらが貴重な税収と雇用を生み出し、村の自立を支えている。

生活インフラの面でも、村独自のユニークな知恵が光る。現在、村内にはスーパーマーケットが存在しない。そのため、住民は隣の山形村などの商業施設へ買い物に出かけるが、村は買い物支援バスを運行して高齢者の足を支えている。

そして最も驚いたのが、私が今いる役場庁舎そのものだ。

エントランスに一歩足を踏み入れると、心地よい木の香りが広がる。なんと、村産の木材をふんだんに使用し、地中熱利用システムを導入した、最先端の環境配慮型庁舎なのだ。村は「2050年カーボンニュートラル」をいち早く宣言し、太陽光発電設置への補助金など環境施策に文字通り命を懸けている。

さらに、この庁舎には「ファミリーマート プラス 朝日村」という、全国でも極めて珍しい自治体連携型のコンビニが併設されている。中を覗くと、通常のコンビニ商品だけでなく、村の農家さんが作った新鮮な野菜や地場産のお米が誇らしげに並んでいた。夏の金曜日には、この前で採れたて野菜の直売市「寄ってきまショップ」が開かれ、一瞬で売り切れるほどの活気を見せるという。道の駅がないなら、役場とコンビニをプラットフォームにすればいい。実に見事なアイデアだ。

村内にある大手菓子メーカー「カンロ」の工場

朝日村のブランド食材「レタス」

朝日村指定重要文化財の「古川寺」

縄文から続く誇りを、次の世代へ繋ぐ

インタビューを終えた私は、暗くなるまでの限られた時間で村内を巡った。

標高の高さを活かした芦之池やキャンプ場を訪れ、冬には自然の寒気だけで凍らせるという「天然のスケート場」が今も開かれる場所へ足を運んだ。村の子どもたちは全員ここで無料のシューズを借りてスケートを習うのだという。文化の拠点である朝日村美術館では、この地から掘り起こされた縄文時代の貴重な遺物が展示され、古泉寺観音堂の歴史的建造物が、古くからこの地で紡がれてきた人々の営みを静かに伝えていた。

昭和の大合併、平成の大合併の荒波を乗り越え、周辺自治体に吸収されることなく「単独」で朝日村であり続けることを選んだ住民たちの誇りと、それを必死のやりくりで繋いできた歴代村長たちの執念。

大都市に依存するのではない。隣接する都市の利便性を賢く「シェア」しながら、独自の環境施策や農業、インフラで自立する。朝日村の姿は、これからの日本の地方が生き残るための、小さくとも力強い灯火そのものであった。地方に眠る宝を、私はこれからも発掘し、世に解き放ち続けていく。

縄文時代から続くこの地の歴史を学べる「朝日村美術館」

朝日村の情報まとめ

長野県の松本盆地(松本平)の南西端に位置する、人口約4,100人の村。大正期の村制施行以来、一度も合併を行うことなく、豊かな自然と独自の共同体を守り続けている。北アルプスや鉢盛山を望む美しい扇状地に集落が広がり、松本市や塩尻市へのアクセスの良さを活かした「程よい利便性のある田舎」として、近隣からの子育て世代の移住が進んでいる。

産業: 扇状地の特質を活かした農業が盛んで、特に「高原レタス」は全国的に有名な特産品。また、村内には大手菓子メーカー「カンロ」の主力グミ工場や、日本の東西の電力を分かつ重要変電所インフラが存在し、経済基盤を強固に支えている。

文化・観光: 豊かな自然を活かしたキャンプ場やスキー場があり、冬場には自然の冷気を利用した「天然のスケート場」が開設され、シューズの無料貸出やスケート教室が行われる。文化面では、縄文時代の遺跡出土品を展示する「朝日村美術館」や「古川寺観音堂」が点在する。

グルメ: 名産の「高原レタス」をはじめ、豊かな湧水と寒暖差が育む新鮮な高原野菜や米が絶品。夏には役場併設のコンビニ前などで、採れたての新鮮な地場産野菜が並ぶ直売市が賑わいを見せる。

今回お話を伺った方

朝日村役場 企画財政課 ご担当者様 朝日村の未来を切り拓くため、企画、公共交通、移住促進、空き家バンク運営など、地域の基盤を支える多角的な業務を牽引するフロントランナー。近隣の松本市在住という客観的な視点を活かしながら、村の「田舎の情緒と程よい利便性」という独自の強みを鋭く分析。若年層・子育て世代に響く手厚い移住・住宅補助施策や、令和末期に向けた新たな移住パンフレットの作成、コロナ禍以降の移住フェアへの積極参戦など、泥臭くも温かみのある地域活性化に日々奔走している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。