人口50万人突破のベッドタウンが挑む「25年先」へのブレない街づくり。市川市で見た、地域経済と子育て施策の未来図

市川市(千葉県)ーー1718ニホン探索(56/1,718)

アイ・リンクタウン展望施設から見るサンセット

人口50万人を突破した市川市

全国1,718の市町村を巡り、地域の「隠れた宝」を発掘して日本を元気にするプロジェクト「1718ニホン探索」。今回私が訪問したのは、千葉県市川市です。

日本の多くの自治体が人口減少や過疎化、それに伴う税収減に頭を悩ませる中、市川市は直近で人口50万人を突破し、今なお増え続けているという、全国的にも極めて稀なエネルギーに満ちた街です。私が過去に訪れた地方都市では、過疎化に苦しむ現場を数多く見てきました。それだけに、都心近郊のベッドタウンとしてこれだけの規模と活気を維持している市川市の姿には、圧倒されるものがあります。

しかし、人が集まる街には集まる街なりの、贅沢でありながらも切実な課題がありました。今回は、市川市の未来のグランドデザインである「市川市総合計画2050」を担当されている企画課の3名のご担当者様にお話を伺い、激動の時代を生き抜くための先進的な街づくりのヒントを探ってきました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo, 江戸川を渡れば、ここが俺たちのフッド。
都会のすぐ隣、緑が優しく包む場所。
市川City、響かすぜこのRhythm。いくべ!

総武線、京成、東西線、どこからでもアクセスは当然
だけど一歩踏み出せば、広がる歴史の導線
手児奈の霊霊(れいれい)、真間山(ままさん)の弘法寺
歩く文学の道、永井荷風も愛した表示
文学ミュージアムで過去と今が交差
この街のポテンシャル、誰もが驚嘆さ
おっと、小腹が空いたら「ありの実」=「梨」
幸水、豊水、シャキッとジューシー、間違いない味!

おっ、そう来なくっちゃ!うちの実家も梨農家
じいちゃんが言うてたっけ、「市川の梨は日本一だべさ!」って。 
休みの日はね、ちょっとのんびりしたいから 
大町自然観察園、里山公園へ行くだわ 
蛍が舞うような、綺麗な水と緑に囲まれて 
「あそこ、すんごい落ち着くんだよねぇ」って、心から癒されて 
それから市川動植物園、カワウソの流しカワウソに胸キュン! 
レッサーパンダと目が合って、私のハートも弾むん!

見上げればアイリンクタウン、150メートルの展望台(Sky High!) 
輝くスカイツリー、広がる未来 
「こんなどすげぇ景色、他にはねぇっぺ?」 
誰もが息を呑む、トワイライトの絶景 
都会の風と、ローカルの愛が交わる街 
ずっとここで生きていく、市川が俺たちの誇り!

万葉の時代から続く、この土地のカルチャー 
だけど今が一番熱い、未来へのベンチャー 
ニッケコルトンプラザで買い物して映画観て 
行徳の神輿、担ぎ手たちの熱気に揉まれて 
「おめぇも一緒にカモン、楽しまなきゃ損だべ?」 
「んだね!」って笑い合える仲間が、ここにいんだ。

黒松の並木を抜けて、明日へ向かうワンステップ。 
「またおいでやす」じゃない、ここは「いつでもけぇってきな(帰ってきな)」の街。 
市川City、愛を込めて。Peace.

市の「最高位の指針」として街の未来を導く、25年スパンの総合計画

市川市役所を訪れてまず私が深く感銘を受けたのは、彼らが掲げる「市川市総合計画2050」が、単なるお題目の計画書ではなく、街の明確な羅針盤として機能している点です。

変化の激しい現代において、長期計画を立てても意味がないと諦める自治体も少なくありません。しかし、市川市では25年先という超長期のスパンで街の「基本構想」を策定し、今年度からその新たな計画をスタートさせています。

計画は「基本構想」「基本計画」「実施計画」という三層構造で構成されています。「この基本構想と基本計画は議会の議決を経るものであり、市長の交代などの politics(政治的変化)に左右されにくい、市の『憲法』のような最上位の役割を果たしているんです」と、担当者の方は語ります。

大学教授や地元団体の代表、市議会議員ら20数名で構成される「市川市総合計画審議会」を何度も重ね、市民参加型でじっくりと練り上げられたこの計画。実施計画については毎年度見直しを行い、慎重な進捗管理が必要な事業などを継続的に審議しているといいます。

私がかつてユーグレナの経営で、リーマンショックの荒波を乗り越えながら背水の陣で営業活動に奔走していた頃、強く実感したことがあります。それは「ブレない一本の芯(指針)」がある組織こそが、最大の危機を乗り越えられるということです。市川市のように、議会と市民が認めた長期的な指針がしっかりと根づいているからこそ、街としての発展の仕方に一本の筋が通っているのだと確信しました。

ニホンザルの「パンチくん」がSNSで世界的にバズり、大人気の市川市動植物園

市川市を南北に流れる「江戸川」

30代〜40代「子育て世代」の流出を防ぐ、攻めの無償化施策

令和8年4月時点で50万人を超え、30年先も現在の人口規模を維持できると推計されている市川市。日本の総人口が減少する中で驚異的な維持力ですが、データをつぶさに見ていくと、ある特有の課題が浮かび上がってきます。それが、30代から40代の子育て世代の近隣自治体への流出です。

「都心へのアクセスが抜群に良い分、市川市は住宅価格や家賃も高めです。そのため、子どもが大きくなり『より安価で広い住宅に住みたい』と考えたファミリー層が、近隣自治体へ移ってしまう傾向があります」

この課題に対し、市川市は手をこまねいているわけではありません。若い働き手が多いという豊かな税収を原資に、他の自治体に先駆けた大胆な施策を議会に提案し、子育て環境の整備に注力しています。

保育料の無償化や、小中学校の給食費の完全無償化がその一つです。

「ここに住み続ける方が、トータルで見て相対的に得だよね」と市民に実感してもらう構造を戦略的に作る。人口が減ってから慌てるのではなく、潤っている今だからこそ未来への投資を惜しまないそのスピード感と判断力は、まさにビジネスにおける攻めの投資そのものです。

JR市川駅横にある「アイ・リンクタウン展望施設」では、360度都心や房総半島まで見渡すことが出来る。また、市川市の歴史、観光情報等を学ぶ事やカフェでくつろぐ事も出来る。

デジタル地域通貨「ICHICO」が起こす、地域経済の幸福な循環

地方創生を手掛ける起業家として、私が最も唸らされたのが、デジタル地域通貨「ICHICO(イチコ)」を活用した地域内経済の循環モデルです。

東京に隣接するベッドタウンの宿命として、市民が東京でお金を使ってしまう「ストロー現象」があります。大手決済アプリでは、手数料も含めてキャッシュが地域外に流れてしまう。そこで市川市は、地域内でお金を循環させるプラットフォームとして「ICHICO」を本格導入しました。現在、利用者数は20万人を超え、市内約1,200店舗で利用可能です。中小店舗での利用に対して5%のポイント還元を行うなど、市内での消費を促す仕組みを構築しています。

「政府の給付施策でお米券を配る話が出た際、うちの市はお米券の代わりに、デジタル地域通貨のポイントを付与したカードを全市民にお配りしたんです。これにより、迅速かつ低コストでの配布を実現し、市内の店舗への導入が一気に拡大しました」

さらに素晴らしいのは、このICHICOが市民の「健康活動」のインフラと連動している点です。市民がウォーキングをして歩数を稼いだり、公共施設の体組成計で測定をしたり、地域の市民活動に参加したりすると、無料スマートフォンアプリを通じて、健康ポイント「Aruco」が付与され、それをICHICOに交換する事が出来るようになっています。

「たくさん歩いて健康になり、地域を綺麗にして、貯まったポイントで地元のお店でお米を買う」

行政がただ予算を消費するのではなく、市民の健康増進やコミュニティ活動への参加を促し、それが地域経済の活性化に直結する。このシステムを、外部の既存アプリを賢く活用しながら低コストでディレクションしている点に、市川市役所の職員の方々の工夫と、強い意思を感じました。

健康活動に付与させる市独自のポイント「Aruco」と市民通貨「ICHICO」

次世代に繋ぐ、環境と地域ブランド

今回の「市川市総合計画2050」では、これまで以上に「次世代のために」「環境との共生」「命を尊ぶ」といった概念が強く重視されています。市川市は環境省の「脱炭素先行地域」にも選定されており、賃貸住宅や集合住宅が多い地域特性を活かした先進的なカーボンニュートラルのモデル事業を提案・実行しています。北部の豊かな緑や、南部の海の環境を維持しつつ、地球環境の変化に対応した街づくりを基本政策として盛り込んでいるのです。

また、独自の地域資源の磨き上げにも余念がありません。市川市動植物園で育児放棄された子ザルを人工哺育する際に与えたオランウータンのぬいぐるみを引きずる様子がSNSで話題となった「パンチくん」は、今や海外からも注目を集めています。特産品としては「市川の梨」が有名であり、これを活かしたブランド化やガバメントクラウドファンディングなどの設計もされているとのことでした。

東京のベッドタウンとしての性格が強い市川市ですが、独自の観光資源や地域通貨を泥臭く、かつスマートに活用し、地域への愛着を高める取り組みを継続しています。

ただの「東京の寝床」ではない。自分たちの街を自分たちの足元から豊かにしていく。市川市の挑戦に大いに共感し、また驚きを感じさせられた訪問となりました。ご対応いただいた企画課の皆様、本当にありがとうございました!

大町公園、里山公園等、緑地が多いのも市川市の魅力の一つ

市川市の情報まとめ

千葉県の北西部に位置する、人口約50万人の都市。東京都心へのアクセスが抜群に良く、活気あるベッドタウンとして発展を続けている。南部は臨海部の工業地帯や商業地として賑わう一方、北部は豊かな緑や歴史的街並みが残り、都市と自然が調和した構造を持つ。近年は環境省の「脱炭素先行地域」に選定されるなど、先進的な環境都市づくりやデジタル地域通貨の導入を積極的に進めている。

産業: 江戸時代から続く伝統的な農業が盛んで、特に梨の栽培は全国的にも有名。また、湾岸部には物流拠点や工業地帯が広がり、都市型経済を力強く支えている。

文化・観光: 万葉集にも詠まれた歴史ある地域であり、弘法寺などの名所が点在。SNSで世界的に話題となった「パンチくん」がいる市川市動植物園は、市外からも多くの人が訪れる人気の観光スポット。

グルメ: 独自のブランドを誇る「市川の梨」や、それらを活用したスイーツ・加工品が代表格。また、江戸前で獲れる豊富な水産物や、地域に根差した多様な食文化が楽しめる。

今回お話を伺った方

市川市 企画課の皆様 市川市の最上位計画である「市川市総合計画2050」の策定および推進を担当。人口増加が続く都市特性を見極めながら、30〜40代の子育て世代の流出対策、デジタル地域通貨「ICHICO」を活用した地域経済循環の構築、健康増進インフラとの連動、カーボンニュートラル社会の実現など、25年先を見据えた持続可能な街づくりのグランドデザインを横断的に牽引する役割を担っている。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。