伝説の名馬が繋ぐ、地方創生の新たなる光。岐阜県笠松町で見た「コンテンツ×聖地」の可能性

笠松町(岐阜県)ーー1718ニホン探索(76/1,718)

「ウマ娘 シンデレラグレイ」のグッズ販売やスタンプラリーが町内各所で行われています。(写真は笠松駅にある「ふらっと笠松」)

オグリキャップがデビューをした地「笠松競馬場」

全国47都道府県、1,718すべての市町村を巡り、その土地の「隠れた宝」を発掘・解き放つプロジェクト「1718ニホン探索」。第76番目の訪問地として私が訪れたのは、岐阜県笠松町です。

笠松町と聞いて、競馬ファンならずとも胸を躍らせる名があるでしょう。そう、昭和から平成にかけて競馬界を席巻し、国民的ブームを巻き起こした伝説の名馬・オグリキャップです。北海道で生を受けたオグリキャップがその非凡な才能を開花させ、中央競馬へと羽ばたいていった原点こそが、ここ笠松競馬場でした。

そして今、この笠松町が再び熱狂の渦に包まれています。オグリキャップの壮絶なストーリーを緻密な取材に基づいて描いたコミック『ウマ娘 シンデレラグレイ』のアニメ化をきっかけに、町と作品の公式コラボレーションが実現。全国、そして世界中から「聖地巡礼」に訪れるファンが絶えないというのです。

今回は、この歴史的とも言える一大コラボプロジェクトを牽引された、笠松町役場 企画DX課のご担当者様にお話を伺いました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo, 木曽川の風(カゼ)に乗り届けるメッセージ
笠松の街から愛を込めてな!
灰色の伝説(Legend)、ここから Run up!
Check it out, 笠松 Pride!

木曽川沿い走る風になれ
土煙舞うコース、笠松の誇りだれ?
『シンデレラグレイ』コラボの街並み
オグリキャップの足跡、胸に刻み
笠松競馬場、聖地巡礼
熱気と歓声、時代を牽引
夢を追いかけたストーリーは本当(ほんと)やて
勝負の行方に誰もが叫ぶで!

「どこ行くの?」って聞かれたら「笠松やて!」
コラボのスタンプラリー、巡っていかへん?
名物のアユや和菓子、手に持って歩けば
歴史ある街並み、心なごむで
「だで言ったやん、笠松最高やて!」
あんたとおると、時間が過ぎてまうわ

風が吹き抜ける、笠松の街!
泥にまみれても輝く Place!
灰かぶりの夢、駆け抜ける脚!
時代のストーリー、繋いでくんだ!
笠松の空へ! 響かせろ Flow!
行こまい、ここが俺たちの Home!

笠松駅から広がる小径(こみち)
商店街でもみんなが Smile
どん底から這い上がった灰色の怪物
うちかて負けへん、夢を抱くヤツ
「がんばりや!」って声が背中を押すで
岐阜弁の温もり、胸に染みるで!

風が吹き抜ける、笠松の街!
泥にまみれても輝く Place!
灰かぶりの夢、駆け抜ける脚!
時代のストーリー、繋いでくんだ!
笠松の空へ! 響かせろ Flow!
行こまい、ここが俺たちの Home!

たとえ小さな町やとしてもな、でっかい夢がここにはあるんやで。
木曽川の水面(みなも)に映る未来、ウマ娘たちと描く誓い。
好きにならんと、損してまうよ?
さあ手を挙げろ、笠松 Connection!

風が吹き抜ける、笠松の街!
泥にまみれても輝く Place!
灰かぶりの夢、駆け抜ける脚!
時代のストーリー、繋いでくんだ!
笠松の空へ! 響かせろ Flow!
行こまい、ここが俺たちの Home!

笠松、ええとこやで、いっぺん来やあね!
オグリの聖地で、また会おうぜ。
笠松 Pride, Forever! Peace out!

ベッドタウンから「熱狂の聖地」へ。行政が拓いた突破口

名古屋から電車で20分強という抜群の立地を誇る笠松町は、もともと静かなベッドタウンとしての側面が強く、いわゆる観光都市としての積極的な誘致活動は行ってきませんでした。

「もともと観光地ではなかった町に、どうやって起爆剤を作るか。それが課題でした」と担当者は振り返ります。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』の連載が始まった当初から、彼は町としてのコラボを模索し、アプローチを続けていたそうです。しかし、実績やコネクションのない自治体からの突然の打診が、巨大なコンテンツホルダーに最初から受け入れられたわけではありませんでした。一度は断られながらも、「アニメ化」という大きな節目に向けて情熱を絶やさず、粘り強く交渉を再開。その熱意が実を結び、ついに公式コラボという大きな結実を見たのです。

行政の仕事において、新しい前例を作ること、特に民間の巨大なIP(知的財産)を相手にルールメイキングを行い、コラボレーションを成立させることは極めて難易度が高い仕事です。地方自治体の担当者が自ら先頭に立ち、作品と町の未来のために動き続けたその行動力には、深い敬意を覚えずにはいられませんでした。

オグリキャップのデビューの地となった「笠松競馬場」。今は「ウマ娘 シンデレラグレイ」の聖地にもなっています。

国境を超える熱量。地域経済へ波及する「コンテンツの力」

コラボレーションが始まって以降、笠松町の風景は一変しました。従来の競馬ファンに加え、作品を通じてオグリキャップを知った若者や女性、さらには海外からのインバウンド客が急増しているのです。

特に興味深かったのは、海外からの訪問者の存在です。担当者によると、アニメが配信されたことで北米やアジア、ヨーロッパなど世界中からファンが訪れており、中でもアメリカからの旅行者が圧倒的に多いとのこと。名鉄笠松駅から徒歩で巡礼できるアクセスの良さも手伝い、町内の各スポットをファンが楽しそうに歩く姿が日常となっています。

単に人が訪れるだけではありません。町内の特定店舗で限定トレーディングカードを配布する仕組みを導入したことで、訪れたファンが地元の商店街へと足を運び、買い物を楽しむ導線が確立されました。「地元のお店の方々が本当に喜んでくれています」という担当者の言葉に、これぞ地方創生の本来あるべき姿だと強く実感しました。

もちろん、IPを扱う上での苦労も並大抵ではありません。ファンや作品の世界観を守るため、版元との緻密な調整が不可欠です。「例えばマンホールへのキャラクター使用は『踏みつけることになるため避ける』といった、キャラクターの尊厳を守る厳格な基準をひとつずつクリアしながら進めています」と語る担当者の言葉からは、作品に対する深い愛情と誠実さが伝わってきました。

町が直面していた「起爆剤の不在」という課題を、地域が誇る歴史的資源(オグリキャップ)と現代のコンテンツ(ウマ娘)の融合によって見事に解決した笠松町。この成功体験は、全国の数多くの自治体にとっても大きな希望となるはずです。

聖地の一つになっている笠松駅

「笠松みなと公園」もアニメのワンシーンとして登場する場所

「八幡神社」にも馬の像が。

笠松町の情報まとめ

岐阜県の南部、濃尾平野の北西部に位置する、人口約2.1万人の町。かつては木曽川の舟運により美濃地方の玄関口として栄え、江戸時代には幕府の天領として陣屋が置かれた歴史を持ちます。名古屋都市圏へのアクセスの良さからベッドタウンとして発展してきた一方、名馬オグリキャップを輩出した笠松競馬場を有する町としても全国的に広く知られています。

産業:木曽川の豊かな水資源を活かした農業のほか、アパレル・繊維産業や金属加工などの製造業が展開されています。

文化・観光:名馬の歴史を刻む「笠松競馬場」や、歴史的町並みが残る「八幡神社周辺」、木曽川の自然に親しめる「笠松みなと公園」などが有名です。

グルメ:名物の「志古羅ん」などの伝統的な和菓子や、木曽川の恵みを受けた川魚料理、町内の飲食店で親しまれるレトロな喫茶グルメが人気です。

今回お話を伺った方

笠松町役場 企画DX課 御担当者様 笠松町役場にて観光・地域振興全般を担当。町固有の歴史資源であるオグリキャップと、漫画・アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』を結びつける公式コラボレーションを企画・実現させる。版元との交渉や町内商店街との連携を主導し、聖地巡礼によるインバウンド誘致と地域経済の活性化に大きく貢献している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。