万葉の時代から続く「癒やしの聖地」を再編集する

湯河原町(神奈川県)ーー1718ニホン探索(7/1,718)

日本最古の温泉町、湯河原町

「ニホンノチカラ」の1,718市町村探索、7カ所目に訪れたのは、神奈川県の南端に位置する湯河原町です。

私は現在、熱海にも拠点を持ち、時々行き来する生活をしていますが、湯河原はお隣ということもあり、美味しいお寿司を食べに来たりと、プライベートでもよく訪れる馴染みのある町です。しかし、今回改めて「ニホン探索者」として役場の観光課の方にお話を伺い、この町が持つ「静かなるポテンシャル」に強い衝撃を受けました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

関東最古の温泉地という「本物」の誇り

湯河原は「万葉集」に唯一、関東の温泉地として詠まれている場所です。 「足柄の 土肥の河内に出づる湯の……」 約1300年前から、ここは人々を癒やす場所として存在し続けてきました。明治以降も、日露戦争の傷病兵たちが静養に訪れた歴史があります。

観光課の方から伺った「タヌキに化かされた人間が温泉を見つけた」という伝説は、単なる昔話ではなく、この町の温かさや包容力を象徴しているように感じました。主要産業の80%以上が第3次産業。まさに「観光と癒やし」で生きてきた町です。

湯河原温泉は「万葉集」から続く日本最古の温泉地

「飯田商店」が示す、地方発のイノベーション

今回の対談で特に印象深かったのは、地元発の食文化が町を変えている点です。 例えば、ラーメン界の聖地とも呼ばれる「らぁ麺 飯田商店」。店主の飯田さんは地元出身で、いまや全国から「飯田商店のラーメンを食べるためだけに湯河原へ来る」という熱烈なファンを呼んでいます。

私が注目したのは、その飯田商店も参画し自治体として「ロカボ(低糖質)」促進に取り組んでいることです。美味しいだけでなく、健康も意識する。これは、温泉地としての「ヘルスツーリズム」と非常に相性が良い。

また、世界的に有名な製菓メーカー「ちぼり(TIVORI)」の本社が湯河原にあることも特筆すべき点です。台湾やアジア圏では「赤い帽子」のブランドで絶大な人気を誇る企業が、地元のみかんを使ったサブレサンドを開発するなど、1次産業(農業)と3次産業(観光)を繋ぐ架け橋になっています。

インバウンドの「質」を追求する勇気

今、日本中の観光地がインバウンド(訪日外国人客)の波に押され、オーバーツーリズムに悲鳴を上げています。しかし、湯河原のスタンスは一線を画していました。

「急激な観光地化よりも、湯河原の静かな雰囲気を愛してくれる質の高い観光客を大切にしたい」

この言葉に、私は深く共感しました。私がアメリカ留学時代に感じた「日本の価値」とは、決して派手なネオンや混雑ではありません。四季の移ろいや、静寂の中に宿るおもてなしの心です。

湯河原には、都心から「FIRE」した現役世代や、クリエイティブな職種の人々が二拠点居住や移住で集まり始めています。彼らのような「新たな住人」と、古くからの伝統が交差する時、湯河原は単なる温泉街を超え、「日本を代表するリトリート(自分を取り戻す場所)」へと進化するはずです。

サーファーが集まる「吉浜海岸」

探索を終えて

湯河原には、みかん、レモン、キウイ、そして豊かな海産物と、磨けば光る「宝」が至る所に転がっています。それらをどう再編集し、世界へ届けるか。

「ニホンノチカラ」としても、この静かで力強い町の伴走者でありたい。タヌキに導かれた先人たちのように、私もまた、この町の新しい価値を世界に導き出す役割を担いたいと強く思わされた訪問でした。

訪問日:2026年2月5日(木)

万葉公園の遊歩道

不動滝

湯河原町の情報まとめ

神奈川県の西南端に位置する、人口約2.1万人の町。万葉集に詠まれた「関東最古の温泉地」として知られ、古くから文豪や画家、傷病兵を癒やしてきた歴史深い静養地です。都心からのアクセスが良く、近年は移住や二拠点居住の地としても注目されています。

産業:観光・宿泊業を中心とした第3次産業が8割を占めます。農業では傾斜地を利用した「みかん」の栽培が盛んで、キウイやレモンなどの柑橘類も豊富です。

文化・観光:万葉公園や幕山公園の梅林など、四季折々の自然が魅力。「ゆたぽんファイブ」というタヌキをモチーフにしたキャラも親しまれています。

グルメ:温泉饅頭や「きび餅」が定番。近年は「飯田商店」を筆頭とするラーメンや、地元産みかんを使ったスイーツ、加工食品が人気を博しています。

今回お話を伺った方

湯河原町 観光課 ご担当者様 湯河原町の観光振興を一手に担う。温泉地の伝統を守りつつ、SNSでの発信やロカボ施策、ヘルスツーリズムなど、現代のニーズに合わせた新しい観光の形を模索。町内外の事業者のハブとなり、湯河原の「質」を重視したまちづくりを推進されています。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。