守り抜くための変革。真鶴町で出会った「プロ経営者」としての町長の覚悟

真鶴町(神奈川県)ーー1718ニホン探索(6/1,718)

真鶴町(まなづるまち)小林町長と対談

全国1,718市区町村を巡る「1718ニホン探索」。第6番目の訪問地として私が訪れたのは、神奈川県の西端に位置する真鶴町です。

熱海、湯河原、小田原に挟まれたこの小さな町は、箱根の芦ノ湖とほぼ同じ面積。しかし、一歩足を踏み入れると、そこにはどこか懐かしく、それでいて計算し尽くされたような静謐な美しさが漂っています。この美しさを30年以上守り続けてきたのが、町の「憲法」とも呼ばれる「美の基準」条例です。

今回、私はこの町で、戦後初となる「町外出身・行政実務未経験」という異色の経歴を持つリーダー、小林伸行町長と対談しました。同い年(50歳)でありながら、11歳で「町長になる」と決意し、プロの行政経営者としてこの地へ飛び込んだ小林町長の言葉には、地方創生のヒントが隠されていました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo, 神奈川の端っこ、半島に腰掛け
小さな町から放つ、デカい仕掛け
三ツ石に祈り、潮風に吹かれ
真鶴の鼓動、耳を貸しな、おめぇらもこれ聴いて元気出せ!

まずは港、朝焼けの真鶴港(まなづるこう)
獲れたてピチピチ、銀の鱗が踊るぞ 
アジにサザエ、金目も極上 
干物の香りが誘う、路地の奥の方 
誇り高き「小松石」、歴史の礎(いしずえ) 
磨けば光る、職人の意地、常に 
「美の条例」が守る、この景観 
狭い「背戸地(せどち)」を抜け、見下ろす海岸

真鶴(Manazuru) 蒼い海と緑の森 
真鶴(Manazuru) 変わらぬ風、
故郷の誇り 三ツ石の先に日が昇り 
おらほの町が一番、胸に残り 
(We love Manazuru, Let’s go!)

「魚つき保安林」、森が海を育む 
自然の連鎖、この大地に刻む 
中川一政、美を求めたアトリエ 
芸術と波音が交差するこのエリア 
ミカンの香りが山から降りてくる 
お裾分け文化、今も生きてる 
「これ食ってみれ、うめぇべ?」って笑い声 
お節介も愛、それが真鶴の習い、良い?

しけ(時化)の日も、凪の日も、この町と
頼朝が隠れた「しとどの窟(いわや)」、歴史の跡
小さくたって、負けねぇ情熱
真鶴スピリット、永久に不滅!

真鶴(Manazuru) 蒼い海と緑の森 
真鶴(Manazuru) 変わらぬ風、
故郷の誇り 三ツ石の先に日が昇り 
おらほの町が一番、胸に残り

駅前の坂道、登れば見える青
明日もここで、最高の笑顔
「また来(き)なよ」って、波が呼んでる
真鶴、最高だべ?
Peace.

「美の基準」という誇りと、過疎という現実

対談の冒頭、小林町長は真鶴の町の在り方を語ってくれました。バブル全盛期、リゾート開発の波が押し寄せた際、当時の町長はそれを拒み、独自の景観条例を制定しました。個人の家でさえ「地域の公共財」と捉え、町並みに調和することを求める——。その徹底した美意識が、今の真鶴を形作っています。

しかし、その代償は小さくありません。かつて1万人を超えた人口は6,000人まで減少し、神奈川県唯一の「過疎指定」を受けることとなりました。

「『美の基準なんて言っているから人口が減ったんだ』と言われることもあります。でも、私はこの選択は正しかったと思うんです」

小林町長のこの言葉に、私は強く共感しました。私がアメリカ留学時代に感じた「日本の価値」とは、画一的な都市開発ではなく、その土地に根付いた文化や景観にこそあるからです。真鶴が守り抜いてきた「美」は、今や鎌倉や逗子の喧騒を逃れた人々を惹きつける、最強の観光資源であり、移住の動機となっています。

真鶴町の景観

プロ経営者視点での「行政DX」への挑戦

小林町長は、自らを「雇われ町長」と呼びます。町民を株主と見立て、その負託に応えるプロ経営者としてのスタンスです。大学院でMPA(行政経営修士)を取得し、客観的なデータに基づいて真鶴の課題を分析した上で、リコール騒動に揺れる町へと乗り込みました。

対談で特に熱を帯びたのは、行政の仕組みに対する危機感でした。 「地方自治体のネット環境は、いまだに昭和のままなんです」

驚くべきことに、多くの自治体ではセキュリティを理由に、一般的なクラウドツールやファイル共有すらままならない「LGWAN(総合行政ネットワーク)」の制約下にあります。小林町長は、この「過剰なセキュリティ意識」が、利便性を損ない、行政の進化を阻害していると指摘します。

人口が減り、税収が落ち込む中で、従来通りのサービスを維持することは不可能です。そこで彼が打ち出したのは、「景観を変えないために、内部を変える」という戦略でした。

  • 公共施設を4分の1迄削減

  • スマートロック導入による24時間の無人管理化

「猶予を持たせつつ、変えられるところから変える。そうでなければ、町そのものが立ち行かなくなる」という言葉には、ユーグレナで数々の修羅場をくぐり抜けてきた私にとっても、身の引き締まるようなリアリティがありました。

三ツ石海岸

鯖みりんの干物

地方自治体の在り方の一つの形

真鶴町には、江戸時代から続く石材業や漁業、そして「美の基準」が育んだ唯一無二のコミュニティがあります。小林町長のような「外からの視点」と「経営のプロ」が、保守的な町の土壌と化学反応を起こすとき、地方は本当の意味で再生するのだと確信しました。

「変わらぬ景色を守るために、変わり続ける」

地方の在り方を一つ学ぶ事が出来た訪問となりました。

訪問日:2026年2月5日(木)

真鶴町の情報まとめ

神奈川県の南西端に位置する、人口約6,000人の港町。真鶴半島一帯が県立自然公園に指定されており、豊かな原生林と相模湾の絶景が共存しています。全国的にも珍しい「美の基準」条例を制定し、住民の手で美しい町並みが守られているのが最大の特徴です。

産業: 古くから「真鶴石(小松石)」の産地として知られ、江戸城の築城にも使われた歴史を持ちます。また、豊かな漁場を活かした沿岸漁業も盛んです。

文化・観光: 日本三大船祭りの一つ、国の重要無形民俗文化財「貴船まつり」が有名。三ツ石(真鶴岬)の景勝地や、森林浴が楽しめる「魚付き保安林」など、自然と共生する文化が息づいています。

グルメ: 「地魚の宝庫」として知られ、新鮮なアジ、サバ、伊勢海老などの海鮮料理が絶品。特に地元の魚を使った「まご茶漬け」は、漁師町ならではの郷土料理です。

対談動画はコチラから

今回対談したリーダーのプロフィール

真鶴町長:小林 伸行(こばやし のぶゆき) 1975年、福島県三春町生まれ。神奈川大学卒業。国会議員秘書、横須賀市議会議員(4期)を経て、早稲田大学大学院政治学研究科にてMPA(行政経営修士)を取得。2023年、真鶴町長選挙に初当選。「プロの行政経営者」として、人口減少対策や行政DX、公共施設の再編など、持続可能なまちづくりに向けた大胆な改革を推進している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ代表取締役。愛媛県新居浜市出身。株式会社ユーグレナ共同創業者として東証一部(現プライム)上場を果たす。2026年より地方創生を目指す起業家として、「1718ニホン探索」プロジェクトを開始。全国1,718市町村を自ら回り、地域のリーダーとの対談を通じて、日本の地方の可能性と課題を発信している。