「通過する街」から「暮らす街」へ。駅前と緑地を舞台に仕掛ける、人口5万人のダイナミックな公民連携まちづくり

坂出市(香川県)ーー1718ニホン探索(92/1,718)

坂出市(香川県)の現地取材写真:「通過する街」から「暮らす街」へ。駅前と緑地を舞台に仕掛ける、人口5万人のダイナミックな公…

瀬戸大橋記念公園から眺める瀬戸内海の風景

坂出市(香川県)の現地取材写真:「通過する街」から「暮らす街」へ。駅前と緑地を舞台に仕掛ける、人口5万人のダイナミックな公…(2)

かつて塩田で栄えた臨海部の工業地帯

坂出市(香川県)の現地取材写真:「通過する街」から「暮らす街」へ。駅前と緑地を舞台に仕掛ける、人口5万人のダイナミックな公…(3)

讃岐富士(飯野山)

1,718ある全国の市町村を自ら車を運転して巡り、地域のリーダーたちと対談しながら日本の隠れたチカラを発掘する「1718ニホン探索」。92番目に訪れたのは、本州と四国を結ぶ大動脈・瀬戸大橋の四国側玄関口である香川県坂出市です。

瀬戸大橋記念公園から臨む雄大な橋梁群と、瀬戸内海に浮かぶ多島美。四国を代表する絶景を誇るこの街は、かつて塩田で栄え、現在は四国屈指の工業集積地としての顔も持ち合わせています。しかし、新居浜市で育った私にとっても、本州と四国を行き来する際、坂出はどうしても「高速道路や瀬戸大橋で通り過ぎる通過点」という印象が強かったのが正直なところでした。

しかし今、この坂出市が極めて大胆な挑戦を進めています。JR坂出駅前と、かつて街と工業地域を隔てていた「緩衝緑地」の大規模な再開発です。人口5万人を下回る規模の自治体が、行政主導かつ公民連携(PFI)を軸にここまでダイナミックに駅前空間を刷新しようとする事例は、全国的に見ても極めて稀です。

いったいなぜ今、坂出市はこの壮大なプロジェクトを始動させたのか。今回は坂出市役所政策部公民連携課の担当者様にお話を伺い、街の未来を拓く挑戦の最前線に迫りました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo, 響く汽笛と塩の香り
四国の玄関、誇りの街
今はまだ工事中、変わりゆくランドスケープ
2年後の未来を描く、Next stage!

青い瀬戸内、架かる瀬戸大橋
島々を縫う巨大なアーチ
かつて塩田で拓いた大地
白き結晶、歴史の配置
東山魁夷の青が揺れる
沙弥島の風に想いを重ねる
「なんしょんな?」交わす温かい声
変わりゆく駅前、見守る光景
讃岐うどん啜り、コシを噛み締め
ここから始まる進化を信じれ

見上げりゃ雄大、瀬戸大橋
ここが四国のゲートウェイ、誇れる街
駅前と緑地、今進むプロジェクト
2年後に描く「みんなのリビング」のセット
「おいでんまい」響く未来の輪
公民連携、手を取り合ってパス
古い歴史の上に芽吹く兆し
坂出の明日へ、架けていく橋!

白峰の杜、静まる夕暮れ
五色台から眺める風景
駅前は今、フェンスの向こう側
音を立て進む、新しいドラマ
官と民で練り上げる青写真
目指すのは誰もがくつろげる暮らし
「2年後が楽しみやけん、待っときまい」
芝生広がり、人が笑い合い
完成の日を夢見て歩くステップ
まだ見ぬリビング、俺たちのベース

見上げりゃ雄大、瀬戸大橋
ここが四国のゲートウェイ、誇れる街
駅前と緑地、今進むプロジェクト
2年後に描く「みんなのリビング」のセット
「おいでんまい」響く未来の輪
公民連携、手を取り合ってパス
古い歴史の上に芽吹く兆し
坂出の明日へ、架けていく橋!

海と橋、そして人の温もり
いま芽吹き始めた新しいストーリー
「ええ町になるけん、一緒に見とこや」
2年後のリビングへ続く道
坂出City… We build our future.
eah, Sakaide represent.

「通過点」を「滞在・滞留する場」へ。市長のリーダーシップが動かす街

市役所を訪れる前、私は実際に開発予定地を歩いてみました。JR坂出駅北側ではすでに大規模な工事用フェンスが立ち並び、重機が慌ただしく動いています。かつて商業施設(旧サティ・イオン)が立っていた広大な敷地周辺も含め、エリア一帯が大きく姿を変えようとしている熱気が肌で伝わってきました。

公民連携課のご担当者が真っ先に口にされたのは、坂出市が長年抱えてきたある構造的な課題でした。

「坂出市は瀬戸大橋や主要幹線道路、鉄道が交差する交通の要衝ですが、それゆえに多くの方にとって“通過点”になってしまっていました。今回の再開発の最大の狙いは、この通過する街をいかに『滞在・滞留する街』に変え、最終的に定住人口を増やしていくかという点にあります」

有福市長が掲げる「中心市街地に人を呼び戻し、街の価値を高める」という強い公約とリーダーシップのもと、このプロジェクトは力強く前進しています。地方自治体の多くが人口減少に直面し、公共施設の維持管理に頭を悩ませる中、坂出市は老朽化した既存の図書館や公民館などの更新時期を捉え、それらを駅前に集約・再編するという決断を下しました。

単なる「ハコモノ行政」ではなく、将来の公費負担の圧縮と中心市街地の活性化を一挙に成し遂げるための、戦略的なエリアマネジメントなのです。

坂出市(香川県)の現地取材写真:「通過点」を「滞在・滞留する場」へ。市長のリーダーシップが動かす街
坂出市(香川県)の現地取材写真:「通過点」を「滞在・滞留する場」へ。市長のリーダーシップが動かす街(2)

JR坂出駅前の再開発。右写真はイメージパース。

コンセプトは「市民のリビング」。PFI(BTO方式)が実現するスピード感

この再開発のメインコンセプトは「市民のリビング」です。

駅前というと、一般的な行政施設や出張所を思い浮かべがちですが、ここには市役所の窓口機能はあえて置きません。核となるのは、市民が日常的に心地よく集える新しい図書館機能。さらに子育て支援施設、カフェ、スタジオ、公民館機能など、市民が思い思いの時間を過ごせる複合的な交流空間が整備されます。

事業手法には、民間資金等の活用による公共施設整備である「PFI(BTO方式:建設・譲渡・運営)」を採用。事業主体は大林組を代表とするグループが担っています。民間事業者が設計・建設を行い、完成後に市へ所有権を移転したうえで、運営や維持管理を民間に委ねる仕組みです。

現場でお話を伺いながら私が特に舌を巻いたのは、その圧倒的な進行スピードでした。

「PFIによって設計と建設をラップ(同時並行)して進められるため、通常の行政発注と比べて事業期間を大幅に短縮できています。バスターミナルの移設や道路の線形変更といった周辺基盤整備を進めながら、建築の設計を一体的に詰めていくことができるのも、単一の民間事業者に包括発注している強みです」

行政の事業といえば、構想から基本計画、設計、個別工事の発注と何年もかけ、完成した頃には時代のニーズとズレてしまっているというケースをこれまで幾度となく見てきました。これほど巨大な複合開発を、令和9年秋(2027年秋)の緩衝緑地、令和10年秋(2028年秋)の駅前複合施設完成という僅か数年のスパンで駆け抜ける推進力は、今の激変する社会においてまさに地方行政が見習うべきモデルケースだと感じます。

坂出市(香川県)の現地取材写真:コンセプトは「市民のリビング」。PFI(BTO方式)が実現するスピード感

まだ着工もしていない緩衝緑地(東地区)。来年には完成予定というスピードで進められています。

坂出市(香川県)の現地取材写真:コンセプトは「市民のリビング」。PFI(BTO方式)が実現するスピード感(2)

無料で開放されている駅前の「香風園」

暗い森から明るく開かれたパークへ。工業都市の記憶を受け継ぐ「緩衝緑地」の再生

今回のプロジェクトのもう一つの見どころが、駅から徒歩圏内にある「緩衝緑地」の再整備です。

坂出市は沿海部に大規模な番の州臨海工業地帯を擁しており、かつては住宅地と工業地域を分かつために緑地帯が設けられました。しかし年月を経て樹木が生い茂り、昼間でも薄暗く、市民が気軽に立ち寄りにくい場所になっていたといいます。幹線道路である讃岐浜街道を走る車からも、緑地に遮られて街の姿が見えにくい状態でした。

現在進められている整備では、必要な樹木を厳選して残しつつ大胆に伐採を行い、光が差し込む明るく開放的なパークへとリニューアルが進んでいます。

「従来は工業と生活を遮るための“干渉”だった場所を、人と人が出会い、寛げる憩いの拠点へと転換します。カフェや地域物産のショップ、イベント拠点を設け、隣接する住宅地からの歩行動線も整えることで、日常の散歩や週末の賑わいを生み出していきたいと考えています」

実際に工事途中のエリアを視察すると、間伐によって空が広く見え、新設された階段や芝生広場の輪郭が美しく浮かび上がっていました。かつての公害対策という歴史的使命を終えたインフラが、市民の憩いの場として新しく息を吹き返す。まさに街の記憶を受け継ぎながら未来へとアップデートする試みです。

坂出市(香川県)の現地取材写真:暗い森から明るく開かれたパークへ。工業都市の記憶を受け継ぐ「緩衝緑地」の再生

夜景も見事な瀬戸大橋

坂出市(香川県)の現地取材写真:暗い森から明るく開かれたパークへ。工業都市の記憶を受け継ぐ「緩衝緑地」の再生(2)

瀬戸大橋タワーからは360度、瀬戸内海や四国の大地を眺めます。

ハードを活かすのは「人の熱意」。市民と共に紡ぐこれからの坂出

どれほど立派な建築物が建っても、そこに集まる人々の愛着やコミュニティが生まれなければ、街のチカラにはなりません。

坂出市では計画段階から市民ワークショップを重ね、民間の知恵や住民の意見を設計に反映させてきました。取材時にも新施設の愛称募集が行われており、わずか数日で想定を大きく超える応募が集まっているとのことでした。自らの街のランドマークに名前をつける――そのプロセスそのものが、市民一人ひとりの当事者意識を育んでいます。

私が全国を巡る中で感じるのは、どんな地域にも必ず固有の歴史や産業、そして再生への種があるということです。坂出市には、瀬戸大橋という世界に誇るインフラがあり、四国有数の工業力があり、そして今、駅前と緑地をつなぐ未来の動線が描かれようとしています。

民間ノウハウを柔軟に取り入れながら、スピード感を持って街の形を再定義する坂出市の挑戦。完成予定の2027年、2028年に向けて、この街が「通り過ぎる場所」から「誰もが立ち寄り、帰りたくなる街」へとどう進化を遂げていくのか。ニホン探索者として、そして一人の起業家として、これからもその歩みを熱い眼差しで見届けていきたいと思います。

坂出市(香川県)の現地取材写真:ハードを活かすのは「人の熱意」。市民と共に紡ぐこれからの坂出
坂出市(香川県)の現地取材写真:ハードを活かすのは「人の熱意」。市民と共に紡ぐこれからの坂出(2)

坂出市内には素敵な古民家宿もいくつかあり、人気の宿となっています。「いろりの宿 木乃古」(左)、「がもう家」(右)

坂出市の情報まとめ

香川県の中央部に位置する、人口約4.9万人の臨海都市。本州と四国を結ぶ「瀬戸大橋」の四国側玄関口として知られ、古くは塩田開発で発展し、現在は番の州臨海工業地帯を中心とする四国有数の重化学工業都市として四国屈指の工業製造品出荷額を誇る。瀬戸大橋記念公園や五色台などの景勝地を有し、穏やかな瀬戸内海の多島美を望む風光明媚な景観も魅力。

産業: 造船、石油精製、化学、電力などの重化学工業が集積する県内一の工業都市。塩田の歴史をルーツに持つ製塩関連企業や化学メーカーの工場が臨海部に集積する。

文化・観光: 瀬戸大橋を一望できる「瀬戸大橋記念公園」、四国霊場第79番札所「天皇寺」、白峰陵(崇徳上皇の御陵)など、豊かな自然景観と悠久の歴史文化が共存する。

グルメ: コシのある本格的な讃岐うどんの名店が点在するほか、瀬戸内海で獲れる新鮮な小魚料理、地元名産の坂出みかん(金時みかん)やサツマイモを使った銘菓が親しまれている。

今回お話を伺った方

坂出市役所 政策部 公民連携課  坂出市の重要施策である「中心市街地活性化」や「公民連携(PFI)事業」を牽引する専門部署。民間活力やノウハウを公共サービス・都市基盤整備に導入し、JR坂出駅前複合施設や緩衝緑地の再整備など、スピード感を持ったエリアマネジメントと持続可能なまちづくりを推進している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。

福本拓元(株式会社ニホンノチカラ代表)