45頭の獅子が揺らす魂。香川県三木町が魅せる「まんで願」の熱気と文化の継承

三木町(香川県)ーー1718ニホン探索(90/1,718)

三木町(香川県)の現地取材写真

三木町の誇り「獅子たちの里 三木まんで願。」

三木町(香川県)の現地取材写真(2)

白山頂上からの眺め

三木町(香川県)の現地取材写真(3)

白山神社の鳥居の先に見える「白山(東讃富士)」

1,718ある全国の基礎自治体をすべて自らの足で巡る「1718ニホン探索」。90番目の訪問地として降り立ったのは、香川県東部に位置する木田郡三木町だ。

平野部を車で走らせていると、讃岐平野特有のどこか愛らしい「おむすび型」の山が視界に飛び込んでくる。日本昔話の絵巻物からそのまま抜け出してきたような、美しい円錐形の姿をした「白山(東讃富士)」だ。私は朝の澄んだ空気のなか、まずは白山神社へ登頂し、その山頂から三木町の穏やかな田園風景と町並みを一望した。

四国で生まれ育ち、アメリカから帰国後に車一つで西日本各地を回ってクロレラを売っていた頃から、私は地方が抱える現実と同時に、地方に眠る無二の美しさを幾度となく肌で感じてきた。そしてここ三木町にも、静謐な自然景観の奥底に、とてつもない熱量を秘めた「日本の宝」が存在していた。

町の誇りである秋の一大イベント、「獅子たちの里 三木まんで願。」。

この祭りの本質と地域活性化の息吹を確かめるべく、私は三木町役場の地域活性課、そして一般社団法人三木町観光協会へと足を運んだ。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo、讃岐の東、ここが三木町
秋風が吹けば ざわめく街並み
鐘と太鼓が 腹の底揺らすぜ
準備はええんな? ほんなら行くで!

見上げりゃそびえる 東讃富士
白山(しらやま)の姿にゃ 迷いなし
空と緑が 溶け合うパノラマ
ここで育った 俺らのドラマ
イチゴにトマト、実る大地の恵み
うまいもん食うて 笑うて暮らす日々
「なんしょんな!」って 声かけあう道
ぬくとい町並み 忘れん意地

まんで願! まんで願! 獅子の里三木町
鉦の音響きゃ 心が踊り出す町
まんでがええ、まんで凄いが、この熱気
十月第四土曜 燃え盛る歴史
白山の下 集まる誇り
繋ぐぜ未来へ 獅子の魂!

十月の夜空 提灯が揺れる
血が騒ぎ出して 全員が吼える
巨大な油単(ゆたん)が 風を切り裂き
大獅子が唸る この街の奇跡
「おいでんまい!」響く声、広がる輪
太鼓のリズムが 打ち鳴らす情熱(ひ)の粉
じいちゃんから親父、親父から俺
受け継いだ魂 誰にも負けんぜ

時代が変わっても 変わらん絆
この白山の風と 獅子の息吹が
迷う俺らの 背中を押すけん
どこにおっても 忘れはせんぜ

まんで願! まんで願! 獅子の里三木町
鉦の音響きゃ 心が踊り出す町
まんでがええ、まんで凄いが、この熱気
十月第四土曜 燃え盛る歴史
白山の下 集まる誇り
繋ぐぜ未来へ 獅子の魂!

香川・木田郡 三木町の風
獅子が舞い、山が立つ、俺らのホーム
また来まいよ、三木町へ
まんで願。

神社の垣根を越え、45団体が集結する奇跡

役場地域活性課で迎えてくれたのは、「三木まんで願。」を現場で支える熱意あふれる担当者の方々だ。

「まんで願(がん)」とは、讃岐地方の方言で「全部」「ありったけ」「何でも揃っている」という意味を持つ言葉だという。「ガン」に「願」の文字を当て、町民すべての願いを結集させるこの祭りは、2012年に現在の形で再スタートを切った。その源流は昭和62年(1987年)から続いた「獅子舞フェスタ」にあり、長年かけて培われた土台をリブランディングしたものだ。

香川県は全国有数の獅子舞王国として知られるが、本来、獅子舞とはそれぞれの氏神や集落の神社へ奉納される極めて神聖な儀礼である。集落ごとに異なる流派や誇りがあり、ひとつの場所に集まること自体が全国的にも極めて珍しい。

しかし三木町では、町内各地の41の獅子舞団体に加え、大人が何十人も中に入る巨大な「大獅子」を操る4団体、計45団体が一堂に会する。人口およそ2万7,000人の町に、毎年10月の第4土曜日になると県内外から5万〜6万人もの人々が押し寄せるという。

「本来はバラバラに舞う獅子たちが、この日ばかりは町の活性化のために垣根を越えて集結するんです」

担当者の言葉に、私は深く胸を打たれた。過疎化や担い手不足に悩む地方が多いなか、伝統という縦割りの壁を住民自らが打ち破り、町全体の連帯として昇華させている。まさに地域の底力、「ニホンノチカラ」の象徴がここにあった。

三木町(香川県)の現地取材写真:神社の垣根を越え、45団体が集結する奇跡

「三木まんで願。」では花火も。

三木町(香川県)の現地取材写真:神社の垣根を越え、45団体が集結する奇跡(2)

地元学生と共同で制作した「獅子舞グッズ」

「記録」のDNAを受け継ぐ観光協会の挑戦

役場での対話を終えた私は、一般社団法人三木町観光協会へと向かった。お話を伺ったのは、役場からの出向として最前線に立つ事務局長だ。

令和4年度に法人化された観光協会では、地域おこし協力隊らとともに、従来の「一過性の観光客集客」から脱却し、地域と深く結びつく人たちを増やすための試みを精力的に展開している。

その核となっているのが、令和3年から始まった「三木フォトコンテスト」だ。単に美しい風景を競うイベントではない。その背景には、三木町出身の偉人であり、沖縄の紅型や首里城の復元・保存に生涯を捧げ人間国宝となった染色工芸家・鎌倉芳太郎の精神が流れている。

鎌倉芳太郎は、徹底した調査と「記録」によって失われかけた沖縄の文化を後世に残した。その精神を受け継ぎ、プロのフォトグラファーによるワークショップを実施し、参加者が町を歩きながら地域の文化や人々の息遣いを写真として記録していく。

「獅子舞の担い手不足は現実としてあります。だからこそ、外から訪れる人が見るだけでなく、実際に獅子舞に触れられる体験コンテンツを作り、毎年この時期に必ず帰ってきたくなる町の関係者に育てたいのです」

村尾さんは熱を込めて語る。さらに観光協会では、地元の中高生とコラボレーションし、獅子舞をモチーフにしたTシャツや手ぬぐいなどのPRグッズも共同開発しているという。ありがちな土産物にとどまらず、若者の感性とプロのデザイナーの助言を掛け合わせ、日常生活で自然に着られる洗練されたデザインへと昇華させているのだ。

伝統を守るとは、ただ昔の形を固守することではない。現代の生活に溶け込ませ、次の世代が誇らしく身につけられる形へと「再編集」することだ。三木町が実践しているアプローチは、まさに私が信じる「地方発のイノベーション」そのものだった。

三木町(香川県)の現地取材写真:「記録」のDNAを受け継ぐ観光協会の挑戦

三木町のシンボルモニュメント「三木まんで願鏡」

三木町(香川県)の現地取材写真:「記録」のDNAを受け継ぐ観光協会の挑戦(2)

白山(東讃富士)

白山の麓から、未来へ舞い上がる獅子のように

事務局長から見せてもらった獅子舞の写真には、若者から古老まで、汗を流しながら獅子頭を掲げる町民たちの真剣な眼差しが捉えられていた。

白山をはじめ、メタセコイアが生い茂る「太古の森」、水量が豊かな「虹の滝」、険しい岩肌を持つ「岳山」など、三木町には豊かな自然が凝縮されている。収穫量はわずかだが極上の甘みを持つ幻のイチゴなど、まだ広く知られていない特産品も眠っている。

しかし、この町の最大の資産は、自らのルーツである獅子舞に誇りを持ち、それを未来へ繋ごうと汗を流す「人」そのものだ。

45頭の獅子が大地を踏み鳴らし、町民の願いがひとつになる時、地方のエネルギーは日本を揺らす力になる。三木町の熱い鼓動を胸に刻み、私は次なる目的地へと車を走らせた。

三木町(香川県)の現地取材写真:白山の麓から、未来へ舞い上がる獅子のように

「太古の森」では恐竜が迎えてくれます。

三木町(香川県)の現地取材写真:白山の麓から、未来へ舞い上がる獅子のように(2)

三木町にある「香川大学農学部キャンパス」

三木町の情報まとめ

香川県の東部、東讃地方に位置する、人口約2万6千人の町。南は讃岐山脈に接し、北は平野部が開け、高松市のベッドタウンとしても発展してきた。シンボルである円錐形の「白山(東讃富士)」や、三木町出身の三木茂博士が命名した生きた化石・メタセコイアが群生する「太古の森」など豊かな自然を有する。秋には45団体もの獅子舞が集う「獅子たちの里 三木まんで願。」が開催され、町中が熱気に包まれる。

産業: 豊かな土壌と水源を活かした農業が盛ん。米作のほか、希少価値の高いイチゴや富有柿、アスパラガスなどの栽培が行われている。また、高松市に隣接する利便性から商業や工業団地の整備も進む。

文化・観光: 人間国宝・鎌倉芳太郎の精神を受け継ぐフォトコンテストや、日本屈指のスケールを誇る獅子舞文化が息づく。観光地としては白山、太古の森、男神・女神の二筋の瀑布からなる虹の滝(こうのたき)などが有名。

グルメ: 讃岐うどんの名店が点在するほか、香川のオリジナル品種をはじめとする高品質なイチゴ、地元産果実を用いたスイーツ、自然豊かな山間部で育まれた清らかな農産物が親しまれている。

今回お話を伺った方

三木町役場 地域活性課  ご担当者様(3名) 三木町の地方創生、観光振興、移住定住施策などを統括する部署。町内最大のイベントである「獅子たちの里 三木まんで願。」の企画・運営をはじめ、町内外の団体や住民と連携しながら、地域の伝統文化を活用した持続可能なまちづくりを推進している。

一般社団法人三木町観光協会 事務局長 三木町役場からの出向として、令和4年度の観光協会法人化を牽引。地域おこし協力隊や地元学校、クリエイターと協働し、三木フォトコンテストの企画運営、獅子舞文化の体験型コンテンツ化、地元産品のリブランディングなど、関係人口・愛着人口の創出に向けた新たな観光戦略を展開している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。

福本拓元(株式会社ニホンノチカラ代表)