幕末の熱気が息づく街で見た「変革」のDNA

萩市(山口県)ーー1718ニホン探索(77/1,718)

吉田松陰の「松下村塾」

上級武士の子供たちが学んだ「明倫館」

全国47都道府県、1,718の市町村を自らの足で巡り、地域の首長や行政マン、そして事業者の方々と対談を重ねる「1718ニホン探索」プロジェクト。77カ所目の訪問地として足を運んだのは、山口県萩市だ。

萩市といえば、誰もが知る明治維新の精神的支柱・吉田松陰をはじめ、高杉晋作、木戸孝允、伊藤博文、山縣有朋など、近代日本の礎を築いた偉人たちを多数排出した歴史の街である。今回の訪問では、萩市役所の観光政策課を伺い、歴史遺産の利活用から、観光を活用した最新の移住推進、IT企業の誘致、古民家再生等、現場の熱量あふれる取り組みを取材させていただいた。

Yo, 日本の夜明けはここから始まった
夏みかん漂う城下町、萩の風
歴史を背負って今立ち上がる
Check it out, この街の魂を

松下村塾、松陰の教え
志(こころざし)胸に抱き、集うぜ
晋作に木戸、維新の英傑(えいけつ)
熱い情熱は今も消えんっちゃ

指月山(しづきやま)の麓、城跡を歩く
白壁の小道で過去と対話する
萩焼の茶碗に注ぐ熱い茶
伝統とプライド、受け継ぐんよ

ぶち熱い思い、この胸に秘め
昔も今も変わらぬ志で
幕末の風が今も吹き抜ける
俺たちの街、誇り高きHAGI

おいでませ萩へ! 歴史が生きる街
風が囁く、偉人たちの声(Voice)
ぶち素晴らしい景色、心に刻め
明治維新の光、永遠(とわ)に照らせ
ぶち好きじゃけぇ、この街が
維新の魂、未来へ繋ぐんっちゃ!

笠山の頂から見渡す日本海
夕日が沈む、茜色の世界
見島牛(みしまうし)に美味しい地魚
恵み豊かな食の宝庫じゃ

「〜しちょる」「〜っちゃ」親しみ込めて
語り継ぐ歴史、次の世代へ
萩の夏みかん、甘酸っぱい香り
歩むこの道に迷いはありゃせん

伝統の重み、背中に感じて
俺たちは進む、一歩ずつ前に
ぶちええ街じゃろ? 誰もが頷く
誇りを胸に、叫び続ける

おいでませ萩へ! 歴史が生きる街
風が囁く、偉人たちの声(Voice)
ぶち素晴らしい景色、心に刻め
明治維新の光、永遠(とわ)に照らせ
ぶち好きじゃけぇ、この街が
維新の魂、未来へ繋ぐんっちゃ!

萩の城下町、風が吹き抜ける
偉人たちの志、今もここにある
おいでませ、俺たちの街へ
HAGI CITY... Forever.

幕末のエネルギーを現代に伝える歴史と街並み

まず伺ったのは、なぜこの萩の地にこれほど濃密な歴史と人物が凝縮されているのかという点だ。

歴史を紐解くと、関ヶ原の戦い後に毛利輝元が城を構えた際、防御に適した「山と海に囲まれた奥まった土地」としてこの三角州が選ばれたという。江戸から遠く離れた地理的制約が、かえって幕末の若者たちのエネルギーを内に溜め込み、爆発させる起爆剤となったのではないか――取材の中で共有されたその視点は非常に興味深かった。

さらに胸を打つのは、松下村塾で学んだ志士たちの多くが、決して身分の高くはない「下級武士」たちだったことだ。吉田松陰という稀代の教育者のもと、身分の垣根を越えて志を持った若者が集い、未来を語り合った。その熱量が、城下町というコンパクトな空間に今も重厚な気配として残されている。

今も残る城下町の街並み

高杉晋作の生家

明倫館

藩校の記憶を継ぐ「明倫館」と、IT企業が惹かれる理由

今回の取材の場となったのは、かつて藩校「明倫館」の跡地に建てられた旧明倫小学校(昭和10年建築)を活用した施設だ。木造の美しい校舎内を進むと、そこには歴史の展示だけでなく、最新のサテライトオフィスが入居する熱気あふれる空間が広がっていた。

特に注目すべきは、入居する東京のIT企業が地元出身の若者たちの受け皿となり、高水準で採用を行っている点だ。単なる景観保護にとどまらず、若者が地元で誇りを持って働ける場が創出されている。

なぜ東京のIT企業がこの萩に拠点を置くのか。もちろん経済的なコスト面もあるだろう。しかしそれ以上に、この街に流れる「アントレプレナーシップ(起業家精神)」と「日本を変革してきた歴史的背景」に強い共感を覚えているからに他ならない。日本の近代化を推し進めた精神的風土が、現代のスタートアップやIT企業の文化と深く響き合っているのだ。

萩城跡

明倫館の4号館にはIT企業やNPO等が入居

萩城下の豪商菊屋家

民間主導の古民家再生と、豊かな食・ジオの魅力

萩市の魅力は歴史だけではない。城下町の美しい景観を守るため高度経済成長期から厳格な景観条例(高さ制限など)が敷かれてきた結果、大型ホテルの無秩序な建設が抑えられ、代わりに「古民家を活用した上質な宿やレストラン」が街の新たな魅力を形作っている。

例えば、市外の経営者が萩の街並みに魅了され、浜崎伝統的建造物群保存地区を中心に私財を投じて古民家再生を進めている事例がある。外からの情熱と、地域住民との丁寧な信頼関係が結びつくことで、空き家情報が自然と集まり、街並みが美しく生まれ変わる好循環が生まれていた。

また、水産業も極めて盛んで、山口県名物の天然フグの多くは萩の漁師によって水揚げされているという。地元のソウルフードであるうどん店「どんどん」の元祖・唐引店を訪ねると、出汁の甘い香りと温かな風情が長年市民に愛されてきた理由を雄弁に物語っていた。さらに、笠山や明神池(妙仁池)といったジオパークとしての自然景観も豊かで、大学のフィールドワークの場としても活用されている。

私自身、18歳でアメリカに渡り日本の価値を再認識し、帰国後は車で全国を回りながら地方の可能性と課題に向き合ってきた。そして今、ミドリムシ事業の創業を経て「地方発!日本再生」を目指す起業家として立ち上がっている。萩市が持つ歴史の重みと、それを現代の産業や移住促進へとしなやかに繋げるアプローチには、これからの日本再生への大きなヒントが詰まっていた。

浜崎伝統的建造物群保存地区の古民家再生

萩のソウルフード「どんどん」

明神池

笠山の展望台から眺める萩の街

世界遺産「萩反射炉」

須佐ホルンフェルス

萩市の情報まとめ

山口県の北西部に位置する、人口約4万人の都市。江戸時代に長州藩(萩藩)の城下町として栄え、吉田松陰の松下村塾をはじめ、明治維新を牽引した偉人を数多く輩出した歴史と文化の街である。

産業:観光業と水産業が基幹産業。天然フグやウニなどの豊富な海産物に恵まれるほか、歴史的建造物を活かしたサテライトオフィス誘致によるIT産業の集積も進んでいる。

文化・観光:世界遺産に登録された萩城下町や松下村塾、反射炉などの幕末維新遺産が残る。また、笠山や明神池などジオパークに指定された豊かな自然景観も魅力である。

グルメ:萩沖で獲れる新鮮なフグやウニなどの海鮮料理、甘めの出汁が特徴的な地元のソウルフード「どんどん」のうどん、甘夏加工品などが名物として知られる。

今回お話を伺った方

萩市役所 観光政策課 ご担当者様 萩市の主要産業である観光政策の企画・推進を担う現場担当者。明治維新ゆかりの歴史遺産や世界遺産「萩城下町」の利活用をはじめ、伝統的建造物群保存地区における古民家再生支援、サテライトオフィス誘致など、歴史的景観の保全と現代の地域経済活性化を両立させる観光施策を最前線で推進している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。