歴史と未来が交差する「三ガク都」で見た、未来への覚悟と本気度

松本市(長野県)ーー1718ニホン探索(61/1,718)

上高地の大正池

美ヶ原高原

「地方発!日本再生」を掲げ、全国の市町村を巡る「1718ニホン探索」の旅。61番目の訪問地として私が足を運んだのは、長野県第二の都市であり、24万人の人口を抱える松本市です。かつて愛媛時代に車で西日本全域の地方を回り、少子高齢化や若者流出という厳しい現実に直面してきた私にとって、独自の魅力を放ち続ける松本市の取り組みは非常に興味深いものでした。

今回は、松本市総合計画(基本構想2030・第12次基本計画)を所管する総合戦略室の責任者にお話を伺い、市の目指す未来像とその具体的な戦略について話を伺いました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

Yo... 2026、美しの国から、アルプスの麓。 
国宝の影、引き継ぐDNA。おめえら、準備はいいかい? 
どこへ行ったって忘れねぇ、この街の風。 
いくぜ、松本City。ぶちかます、Here we go.

漆黒の天守閣 見上げるお城(おしろ) 
四百年以上の歴史がここに居座る 
五重六階 そびえ立つ松本城 
その威風堂々たる姿に今日も見惚れる

女鳥羽川(めとばがわ)沿い 縄手通り 
カエルの案内でぶらり歩き 
中町通りの蔵造り、白と黒 
モダンとレトロが混ざり合うフロウ

「おまや(お前ら)、最近どうだい?」って声かけるツレ
「ずく出して(やる気を出して)」行こうぜ、この道の先へ
寒さに負けねぇ、「へぇ(もう)」慣れっこさ
凍みる冬を越え、春の桜を待つんだ

「いただき(山頂)」から見下ろす 俺たちの街
そびえる北アルプス 揺るがぬ意志
信州松本 「ごしたい(疲れた)」夜も
この街の灯りが 俺たちを照らす
誇り高き烏城(からすじょう)の空
響かせろMy voice 届くまで
「なから(だいたい)」の覚悟じゃ終わらせねぇ
これが松本のリアル、ブレないスタイル!

朝飯はすんきか?いや、目覚めの1曲 
昼は信州そば、ツルッとすする一瞬 
それかガッツリいこうぜ「山賊焼き」 
ニンニク効かせて、タレが染み渡り

あいつの態度、ちょっと「たく(長引く・面倒)」
だけど 腹を割って話せば、みんな熱い仲間と 
まつもと市民芸術館から松本シェーナまで 
カルチャーの種は、絶やさずに明日へ

「これ、おくれ(ちょうだい)」って、譲り合う優しさ 
だけど芯は強い、それが松本のカタチさ 
浅間温泉で癒やす、冷えた身体 
明日へのエネルギー、満ちてくからな

セイジ・オザワの音楽が響いた街 
松本山雅、緑のサポーターの価値 
アルウィンが揺れる、一体感の熱(ヒート) 
誰もがこの街の主役、ストリート

「そんなこと言ったって、「しゃあない(仕方ない)」 
なんて諦める言葉は、俺たちにはない 
「〜だで(〜だから)」、「〜ずら(〜でしょう)」って言葉に乗せて 
愛着とリスペクト、この胸に込めて

美ヶ原から昇る、まぶしい太陽
湧き出る清水(きよみず)、枯れない愛情
どれだけ遠くへ旅に出たとしても
帰る場所は一つ、ここ松本!

「いただき」から見下ろす 俺たちの街
そびえる北アルプス 揺るがぬ意志
信州松本 「ごしたい」夜も
この街の灯りが 俺たちを照らす
誇り高き烏城の空
響かせろMy voice 届くまで
「なから」の覚悟じゃ終わらせねぇ
これが松本のリアル、ブレないスタイル!

誇りを持て、松本っ子。 
「おやすみなして(おやすみなさい)」のその前まで、突っ走るだけ。 
この街に生まれて、よかっただ。
PEACE... 松本City、永遠に。

松本市を象徴するアイデンティティ「三ガク都」の真意

松本市を語る上で欠かせないのが、市が掲げる「三ガク都(岳・楽・学)」というコンセプトです。

「岳」: 北アルプスをはじめとする豊かな山の資源。

「楽」: 平成4年から続き、街に深く根付いている「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」に代表される音楽や生活を楽しむ文化。

「学」: 明治6年創立の旧開智学校や、県庁所在地ではないこの地に旧制松本高校を誘致したという、歴史的な学びへの高い自負。

お話を伺う中で印象的だったのは、この「三ガク都」が新しく作られた政策的なスローガンではなく、松本が元々持っている自然や歴史、文化の特徴を、市民に分かりやすく伝えるために自然な形で定着していった言葉だということです。

アメリカ留学時代、異文化の中で「日本の価値」を客観的に見つめ直した私にとって、地域独自の歴史的背景や文化資源をしっかりと自覚し、それを街のアイデンティティとして誇り高く掲げる松本市の姿勢には、深く共感するものがありました。

旧開智学校校舎

草間彌生氏のアートコレクションが展示された「松本市美術館」

松本市時計博物館

「人口定常化」への挑戦と、徹底した子育て支援

日本全体の大きな課題である人口減少に対し、松本市は「人口定常化」という明確な指針を打ち出しています。これは2070年の人口ピラミッドを見据え、65歳未満の人口における自然減をなくし、持続可能な規模を維持するという極めて具体的な目標です。

その中核となるのが「こども・若者・教育」への注力です。不妊治療支援や結婚新生活支援といった切れ目のないサポートに加え、特にユニークだと感じたのが「子育て支援クーポン事業」です。これは、家事支援員やベビーシッターなどのサービスを実質無償(クーポン範囲内)で利用できる仕組みであり、単なる金銭的給付に留まらず、孤立しがちな子育て世帯の「時間と心のゆとり」を生み出す実践的な施策です。

ユーグレナの創業期、資金繰りに窮して「次の四半期で完全黒字化できなければ取締役を辞める」と背水の陣で臨んだ経験を持つ私だからこそ、行政がここまで明確に数字と未来の形を示し、覚悟を持って施策を打っていることに、強い本気度を感じざるを得ませんでした。

条例に刻む覚悟。「ゼロカーボン」と「人が主役のDX」

松本市が掲げる2つの重点戦略が「ゼロカーボン」と「DX・デジタル化」です。

驚かされたのは、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」を実行するために、全国的にも珍しい「ゼロカーボン実現条例」を制定している点です。専門部署である環境エネルギー部を設置し、単なるお題目ではなく「ゼロカーボン市民アクションプラン」として市民に落とし込んでいます。若者が環境について議論する「ゼロカフェ」の開催など、市民の納得感(腹落ち)を重視するプロセスは、組織を動かす上で最も重要な対話の姿勢そのものです。

さらに、地元企業や金融機関13社が連携した「松本平カーボンエネルギー株式会社」等のコンソーシアムを形成し、再生可能エネルギーの地産地消を推進している点や、公用車を夜間・休日に市民や観光客へ貸し出す「EVカーシェアリング事業」など、官民連携のアプローチも非常に合理的です。

もう一つの戦略であるDXにおいても、松本市は「技術が目立つ街ではなく、人が主役のデジタルシティ」を掲げています。 行政の効率化だけでなく、公共交通(バス)のキャッシュレス決済導入(Suicaやクレジットタッチ決済など)を段階的に進めたり、体育館などの公共施設の鍵をスマートロック(パスワード運用)に切り替えたりと、市民が直接恩恵を感じられる部分から着実にデジタル化を進めています。民間企業と連携し、メタバース上で松本城の体験や行政説明を行う「バーチャル松本」という先進的な試みも始まっており、技術を手段として人々の利便性を高める思想が一貫していました。

国宝「松本城」は松本市のアイデンティティであり誇りでもある。

宿泊税の導入と、持続可能な観光街づくり

松本市は観光政策においても大きな変革期を迎えています。今年6月から導入される「宿泊税」を財源として活用し、観光コンベンション協会を通じて実効性のある観光事業を強化していく方針です。

行政の課題である「数年ごとの人事異動による専門性の低下」を防ぐため、外部組織や第三セクターとの連携を深め、予算を投入して一貫性を確保する仕組み作りは、まさに持続可能な経営感覚です。

現在、市が注力している「えきしろ空間」の活性化プロジェクトは、松本駅から松本城までの中心市街地をハード・ソフト両面で整備するものです。冬の集客策として松本城でのプロジェクションマッピングを毎日実施するなど、夜間の滞在・宿泊促進に繋げる動線設計も緻密に行われていました。

取材を終えて:松本の魅力を肌で感じる

インタビュー後、私は24万人の活気溢れる松本の街を実際に歩き、その魅力を肌で体感しました。

国宝・松本城の威風堂々とした姿、レトロな街並みが美しい縄手通りや中町通りを散策。さらに、草間彌生氏の圧倒的なアートコレクションが展示された「松本市美術館」、ニューヨーク・タイムズでも紹介され、個人の熱いコレクションを市が引き継いだ「松本市時計博物館」、そして教育の原点である「旧開智学校校舎」を訪れました。

一歩街へ出れば、歴史的な建造物と現代のアート、そして美しい自然が完璧な調和を見せています。賑わう夜の街並みも含め、松本がなぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか、そして「三ガク都」の「学」がなぜこれほどまでに市民の自負となっているのか、その理由が深く腑に落ちました。

当たり前のことを、当たり前に、しかしどこよりも熱い覚悟と緻密な計画で実行する松本市。ここには、日本が誇るべき地方の「隠れた宝」と、それを未来へ繋ぐ確かなチカラがありました。

レトロな露店が並ぶ「繩手通り」

「復活・再生」の願いが込められた「カエル」が縄手通りの象徴

「中町通り」には白壁と黒なまこの土蔵造りの建物が並ぶ

松本市の情報まとめ

長野県の中部に位置する、人口約24万人の中核市。北アルプスなどの雄大な自然に囲まれ、国宝松本城を中心とする城下町としての歴史的背景を持つ。「岳・楽・学」の「三ガク都」を掲げ、山の資源、音楽文化、高い教育風土が街のアイデンティティとして深く定着している。

産業: 製造業(機械・電子機器)、ソフトウェア開発などのIT産業が盛ん。また、豊かな自然を活かした農業(リンゴ、ぶどう、すいか等)や、酒造業も伝統的に強みを持つ。

文化・観光: 国宝「松本城」をはじめ、明治の教育遺産「旧開智学校校舎」、草間彌生氏の作品を収蔵する「松本市美術館」など豊富な文化施設を有する。世界的な音楽祭「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」も有名。

グルメ: 信州そばの本場として知られるほか、鶏のから揚げを大胆にアレンジした郷土料理「山賊焼き」、豊かな湧水で育まれた信州サーモンや地酒、新鮮な高原野菜やフルーツが広く親しまれている。

今回お話を伺った方

松本市 総合戦略室 室長 松本市の未来を形作る「松本市総合計画(基本構想2030・第12次基本計画)」の策定・推進を担う。人口定常化、ゼロカーボンシティの実現、DX推進など、市の最重要課題における骨太な戦略立案と庁内の政策調整を牽引している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。