博多から8分、新幹線が「日常」になる街。アートと自然が溶け合う那珂川市の挑戦。
那珂川市(福岡県)ーー1718ニホン探索(20/1,718)
新幹線基地の恩恵で、330円8分で博多へ
福岡市の中心部・天神や博多から車を走らせることわずか数十分。ビル群が途切れたかと思うと、目の前には深く瑞々しい緑の山々と、その間を縫うように流れる清流が現れました。今回、私が訪れたのは福岡県那珂川(なかがわ)市。
2018年に「町」から「市」へと移行したばかりの、日本でも有数の新しい市です。今回ご対応いただいた地域戦略課の方とお話しする中で、この街が持つ「都市近接」と「深い自然」という、一見相反する二つの要素が奇跡的なバランスで共存している姿が見えてきました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
那珂川の風、感じてみん? うちらの街、最高やけん! Welcome to NAKA-GA-WONDERLAND! 博多南、駅に集合(Yeah) 300円の新幹線、これ常識っしょ?(So cheap!) 基地に並ぶ0系、N700(Woo) レールの上、夢ば乗せて走ると 朝のラッシュも、この風でリセット 都会に近いけど、空気は別格 現人神社(あらひとじんじゃ)で願掛けして 「今日も良か一日になりますように」ってね! 那珂川、那珂川、うちらの誇り 山も川も、全部が宝物(たからもん) 水辺の里、カワセミが舞う 「また来んね!」って、笑顔で歌う NAKA-GA-WONDERLAND! どこまでも NAKA-GA-WONDERLAND! 繋がる未来(さき)へ お腹が空いたら、五ヶ山(ごかやま)へGo! ダムの景色、ばり凄(すご)いっちゃんね(Wow) 「モンベル」でギア揃えて、キャンプにBBQ 中ノ島公園、夏は川遊びで決まり 自然のパワー、身体中にチャージ 那珂川(なかがわ)の流れ、止まらんとよ、ずっと ミリカローデン、イベントで盛り上がり 地元の絆、誰にも負けんけん! 夜になれば、星がばり綺麗 静かな街並み、癒されるね 都会の喧騒、ちょっと忘れて ここに帰ってくれば、ほっとするとよ 「好いとーよ、那珂川」 那珂川、那珂川、うちらの誇り 山も川も、全部が宝物(たからもん) 水辺の里、カワセミが舞う 「また来んね!」って、笑顔で歌う NAKA-GA-WONDERLAND! どこまでも NAKA-GA-WONDERLAND! 繋がる未来(さき)へ 那珂川市、よかとこやろ? 遊びに来んね、待っとーよ! Peace out, Nakagawa Love...
「回送列車」がつないだ、驚異の利便性
那珂川市を語る上で欠かせないのが、「博多南駅」の存在です。
実はこの駅、もともとは新幹線の車両基地に向かうための「回送線」を利用して誕生しました。新幹線の基地があるという特殊な環境を活かし、市民の要望によって旅客化したという経緯があります。驚くべきは、博多駅までわずか8分、しかも特急料金を含めてもわずかな金額で「新幹線車両」に乗って通勤・通学ができるという点です。
「極論、福岡市内のどの駅よりも博多駅に出やすいかもしれませんね」と私が漏らすと、担当者の方は誇らしげに頷かれました。1日に1万5、6千人もの人々がこの駅を利用しているといいます。この「新幹線が日常の足」という唯一無二のインフラが、那珂川市の発展を支える大きなエンジンとなっているのは間違いありません。
現人神社
「5万4人」の奇跡と、ベッドタウン故の課題
那珂川市が「市」に昇格した際の裏話も非常に興味深いものでした。市になるための要件の一つに「人口5万人」がありますが、平成27年の国勢調査で同市の人口は「5万4人」。わずか4人の差で要件をクリアしたのです。このギリギリの数字には、当時の町職員や市民の方々の並々ならぬ熱意と「自分たちの街を自分たちで誇れる形にしたい」という意地を感じずにはいられません。
しかし、市に昇格し、福岡市のベッドタウンとして人口を維持している一方で、課題も見えてきました。それは「独自の基幹産業」の育成です。
お話を伺うと、那珂川市の労働人口の多くは福岡市内に勤めており、市内での産業はサービス業が中心。農業も行われていますが、「那珂川といえばこれ!」という圧倒的な特産品を作るのは容易ではありません。
これは私の故郷、愛媛県新居浜市とも共通する悩みです。新居浜は住友グループの城下町として発展しましたが、一本足打法ゆえに独自の観光資源や特産品の開発に苦労してきました。那珂川市もまた、利便性が高すぎるがゆえに「寝に帰るだけの街」になってしまうリスクと常に隣り合わせなのです。
市民の憩いの場「中ノ島公園」
アートが芽吹く「南畑(みなみはた)」の可能性
そんな中、私が最も面白い取り組みだと感じたのが、市域の7割を占める山間部、特に「南畑」と呼ばれるエリアの取り組みです。
中ノ島公園周辺のこの地域には、その豊かな自然と美しい水に惹かれたアーティストやクリエイターたちが移り住んでいます。毎年開催される「南畑美術散歩」では、普段は閉じられている工房が開放され、多くの人々がアートを求めてこの山あいを訪れます。
「もともとは小学校の存続危機から始まった移住促進でした」と担当者の方。地元の方々の危機感が、移住者を受け入れる土壌を作り、それが結果としてパン屋やカフェ、アトリエが点在するクリエイティブな村のような空気感を生み出したのです。
戦略的に無理やり作った観光地ではなく、地域の危機感と移住者の熱意が「自然と溶け合った」結果としてのブランディング。これこそが、これからの日本の地方が目指すべき一つの解ではないでしょうか。
南畑エリアには、移住してきた芸術家の各種工房が点在
日本の再生は、この「バランス」から始まる
アメリカ留学時代、私は多民族国家のダイナミズムに圧倒される一方で、日本の「四季の豊かさ」や「独自の文化」「人の質」等の価値を再認識しました。那珂川市には、博多南駅周辺の「動」の利便性と、南畑エリアの「静」の豊かさが、わずか数キロの距離に凝縮されています。
現在、那珂川市ではAIオンデマンドバスの運行など、新しい交通手段の模索も始まっています。新幹線以外の二次交通の脆弱性という課題はありますが、逆に言えば、そこをテクノロジーや創意工夫で埋めることができれば、この街の価値はさらに跳ね上がるでしょう。
「利便性と自然の共存」。言葉で言うのは簡単ですが、それを市民の「暮らし」として成立させている那珂川市。地方創生を志す起業家として、私はこの街に、日本が再び誇りを取り戻すためのヒントを強く感じました。
五ケ山ダム周辺には、モンベルのショップ、キャンプサイト等があり、那珂川周辺の住民の週末ライフを豊かにしています。
那珂川市の情報まとめ
福岡県の西部に位置する、人口約5万人の都市。2018年10月に福岡県内で19番目の市として誕生しました。福岡市中心部から約15km圏内にありながら、市域の7割を山林が占め、清流「那珂川」の源流を有するなど、豊かな自然環境を誇ります。最大の特徴は、新幹線車両基地の回送線を活用した「博多南線」の存在で、博多南駅から博多駅までわずか8分という驚異的なアクセス性を実現。これにより、福岡市のベッドタウンとして急速に発展を遂げました。
産業: 福岡市への通勤者が多く、市内では商業やサービス業が中心です。農業も盛んで、特に清らかな水で育つ米や、アスパラガスなどの生産が行われています。また、近年は南畑地区を中心にクリエイターやアーティストが集まり、小規模ながらも個性的なショップやアトリエが増えています。
文化・観光: 市域北部の近代的な都市景観に対し、南部にはキャンプ場や「中ノ島公園」など、四季折々の自然を楽しめるスポットが点在します。特に、移住した芸術家たちの工房を巡る「南畑美術散歩」は、地域の新しい文化イベントとして定着しています。
グルメ: 豊かな水を活かしたこだわりのうどん店や、山間部の古民家を活用したカフェ、週末限定オープンのパン屋などが人気。地元の農産物直売所「かわせみの里」では、新鮮な野菜や果物、特産の米などが購入でき、福岡市内からも多くの人々が訪れます。
今回お話を伺った方
那珂川市役所 地域戦略課 ご担当者様ふるさと納税や企業誘致などを取り組み、これまでは観光やまちづくり、総合計画や総合戦略といった将来ビジョンの策定にも携わってきた。2018年の市制移行を経験し、ベッドタウンとしての利便性と、山間部(南畑や五ケ山エリア)の活性化という両面の課題に向き合い、市内外へ那珂川市の魅力を発信し、那珂川市のファンづくりに取り組んでいる。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。









