明治ロマンが薫る「粋」な街。湘南発祥の地・大磯で、日本の豊かさの原点を見る。
大磯町(神奈川県)——1718ニホン探索(15/1,718)
明治の香り漂う「大磯町」へ
「ここが、あの『湘南』の始まりだったのか」
国道1号線沿いにそびえ立つ見事な松並木を眺めながら、私は感慨にふけっていた。今回の訪問地は、神奈川県大磯町。かつての東海道宿場町であり、明治期には伊藤博文をはじめとする歴代宰相や政財界の重鎮たちがこぞって別荘を構えた、日本屈指の「避暑・避寒の地」だ。
私がアメリカ留学時代に痛感したのは、日本の持つ歴史の重みと、それを活かしきれていないもどかしさだった。しかし、ここ大磯には、その「日本の価値」が驚くほど鮮やかに残っている。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
Hah... O-I-S-O... 受け継ぐHistory 宿場町(まち)の誇り 大磯宿ここから始まる 蒼い魂のStory 東海道八番目 名高い「大磯宿」 松並木を抜けて 歴史のページをめくる 明治の元勲(スター)たちが愛した この静寂(しじま) 滄浪閣(そうろうかく)の庭で 未来を描いた 日本初の海水浴場 照ヶ崎の浜 砂利を噛む波音 俺たちの鼓動(ビート)だ 鴫立庵(しぎたつあん) 西行が詠んだ秋の夕暮れ 湘南の名のルーツ ここに刻まれてるぜ (Dialect flow) 「どこ行くべ?」って 仲間と肩を並べる 大磯の良さは 住めばわかるべ? 急がず 焦らず この街のテンポで 変わらない景色が 俺らを待ってるんだ 照らし出す 大磯宿(ここ)は光の場所 左義長の火が 夜空を赤く染めりゃ 魂(ソウル)は震え 一つに重なる (Oh, Sagicho Fire, Higher!) 潮風は歌う 愛するこの街を 海と山が結ぶ 永遠の絆を 朝市の湯気 港に上がるシラス 獲れたての輝き これぞ大磯の至福 「めしや大磯港」 行列も厭わない 地元の野菜も 大地の恵み、間違いなーい 旧吉田茂邸 バラが香る庭園 展望台から 富士を望む贅沢な瞬間 伝統を背負って 未来へ繋ぐバトン この街に根付く 揺るぎないプライド (Dialect flow) 「今日はいい凪だべ?」 じいちゃんが笑う 「あそこらへんで また集まろうじゃん」 気取らない言葉が 心に染みるのさ 大磯っ子の愛は 誰にも負けねえべ (Clap your hands!) 古きを敬い 新しきを拓く (Oiso Pride! Yes, Oiso-juku!) 波の音は 命の鼓動 (Soul of the Town!) ずっと この場所で…… 蒼く染まるステイション 俺たちの 大磯宿…… Peace.
医療から始まった「海水浴」と、政財界を惹きつけた磁力
役場を訪ね、産業観光課の方とお話をさせていただいた。そこでまず驚かされたのは、大磯が「海水浴発祥の地」であるという歴史の裏側だ。
「もともと海水浴は、レジャーではなく『医療目的』だったんです」
初代軍医総監・松本順が、潮風や海水に浸かることで体を癒やす「潮湯治(しおとうじ)」を提唱したのが始まりだという。現代の私たちが楽しむマリンスポーツの原点が、この大磯の海に、それも人々の健康を願う祈りから始まったという事実は、実に感慨深い。
この海水浴の発展とともに、多くの名士たちが大磯の風光明媚な景観に魅了された。伊藤博文、大隈重信、吉田茂……。彼らが愛した邸宅跡はいま、「明治記念大磯邸園」として整備が進んでいる。一部公開されている庭園に足を踏み入れると、かつてこの場所で日本の未来が語られたであろう、凛とした空気が肌に伝わってくる。
明治記念大磯邸園の入口
陸奥宗光邸の座敷から見える景色
大隈重信邸。建物の一部は当時のまま残っている。
「瀟 洒(しょうしゃ)な賑わい」が守る、大磯のプライド
大磯町のまちづくりにおいて、非常に印象的なキーワードに出会った。それが「潤いづくり計画」に掲げられた「瀟 洒(しょうしゃ)な賑わい」という言葉だ。
「瀟 洒」とは、粋でお洒落、しっとりと落ち着いた様を指す。インバウンドに沸く昨今の観光地のような喧騒を追い求めるのではなく、住環境とのバランスを大切にしながら、質の高いゆったりとした時間を過ごしてもらう。この姿勢に、私は強く共感した。
「誰彼構わず住んでもらえばいい、というわけではない。大磯の価値観を共有できる方に住んでいただきたい」
町長が掲げるその方針は、単なる排他性ではなく、自分たちの町の歴史と文化に対する深い自負と責任の表れだ。移住を促進しつつも、町の品格を損なわない。この「引き算」の美学こそ、成熟した日本が学ぶべき姿ではないだろうか。
旧吉田茂邸の正門
大磯の象徴とも言える「東海道松並木」
官民一体で「メイドイン大磯」を世に問う
町を歩けば、相模湾で獲れるシラスや干物、地元の和菓子、さらには「大棚柿」や「マコモダケ」といった希少な農産物まで、豊かな食文化が息づいている。これらを「メイドイン大磯」ブランドとして登録し、官民連携の「潤いづくり協議会」が中心となって発信している点も、地域再生のモデルケースと言える。
今、訪問を終えて思うのは、大磯のような「歴史」と「現在」が心地よく共存する場所にこそ、これからの日本の誇りが眠っているということだ。
「湘南」という言葉の由来は、中国の景勝地に似ていると称された石碑にあるという。海の向こうを意識しつつ、目の前の美しい自然を愛でる。そんな先人たちの豊かな感性を、私たちはもう一度取り戻さなければならない。
明治ロマンの残り香と、波音が混ざり合う大磯。ここは、ただの別荘地ではない。日本が再び自信を取り戻すための、ヒントが詰まった「瀟 洒な町」だった。
大磯城山公園展望台から眺める大磯の街と海
大磯町の情報まとめ
神奈川県の南西部に位置する、人口約3.1万人の町。江戸時代には東海道の宿場町として栄え、明治時代には「海水浴発祥の地」として、また政財界の要人が別荘を構える国内屈指の邸宅地として発展した。
産業: かつては漁業が基幹産業であったが、現在は農業と商工業が中心。観光を重要な産業と位置づけ、歴史的資産を活かした「核づくり」事業を推進している。
文化・観光: 「旧吉田茂邸」や整備中の「明治記念大磯邸園」など、近代日本の歴史を伝えるスポットが点在。また、新田山にある石碑に由来する「湘南発祥の地」としても知られ、サーフィン等のマリンレジャーも盛ん。
グルメ: 相模湾の「生シラス」や「干物」などの海産物が有名。また、「大玉柿(おおだま柿)」や中華食材としても珍重される「マコモダケ」などの特徴的な農産物も特産品として親しまれている。
今回お話を伺った方
産業観光課 ご担当者様 大磯町の観光振興および産業活性化を担う。「潤いづくり計画」に基づき、官民連携組織「潤いづくり協議会」の運営や、地域ブランド「メイドイン大磯」のプロモーションなどを担当。町の歴史と住環境の調和を重視した、持続可能なまちづくりに尽力されている。
筆者プロフィール
株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。









