観光の聖地・熱海の「次なる一手」と構造改革への挑戦

熱海市(静岡県)ーー1718ニホン探索(8/1,718)

今回は馴染みのある熱海市へ訪問

日本の再生を信じ、全国1,718の市町村を巡る「1718ニホン探索」。8箇所目に訪れたのは、私にとっても馴染みのある、まさに「地元」という感覚を持っている場所、静岡県熱海市です。

新幹線で品川からわずか40分弱。かつて「おじさんの街」「社員旅行の街」と呼ばれ、バブル崩壊後に衰退の危機に瀕したこの街は、今や若い女性や家族連れ、そしてセレブ層までもが闊歩する、日本でも稀有なリブランディングの成功例として知られています。しかし、住人として、そして起業家としてこの街を見つめる時、華やかな賑わいの裏側にある「本当の課題」と、それを打破しようとする行政の熱い挑戦が見えてきました。

訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。

観光特化型都市の宿命と「人口の壁」

今回、熱海市役所の観光経済課責任者の方とお話しし、まず突きつけられたのは「人口減少」の現実でした。熱海の人口は約3万2千人。観光客がこれだけ溢れているにもかかわらず、人口は減り続け、高齢化率は約48%に達しています。

市内のリゾートマンションやホテルから眺める海は絶景ですが、その景観を支えるのは、かつての大型旅館跡地に建った別荘型マンションです。私自身、この街が大好きで「四番目の地元」と公言していますが、行政側から見れば、私のような「二拠点居住者」は、昼間の賑わい(関係人口)には貢献できても、住民税という形での定住人口にはなり得ていない。

特に課題なのは、隣接する函南町などに若者が流出していることです。「働くのは熱海、住むのは函南」。これでは、熱海の活力が域外へ逃げてしまう。観光地としてこれ以上のキャパシティ拡大が難しい今、熱海は「いかに人を増やすか」から「いかに一人ひとりの消費額と満足度を高めるか」という、量から質への転換期に立っています。

高台(熱海城)から眺める熱海市街地

「専門家」に未来を託す、行政の覚悟

対談の中で、私が最も感銘を受けたのは、熱海市の構造改革への強い意志です。

これまで、日本の行政の弱点は「数年ごとの異動」にありました。専門的な知見が必要な観光政策でも、担当者が数年で入れ替わってしまう。熱海市はこの「官の限界」を認め、2025年4月に「熱海観光局(DMO)」を設立。トップにはJTB出身の民間人を公募で起用しました。

さらに、2026年度からは宿泊税を財源とし、予算も権限もこの観光局へ大胆に移管していくといいます。「行政は黒子に徹し、プロに任せる」。このスピード感と覚悟こそ、私が「ニホンノチカラ」で目指したい地方創生の理想形の一つです。

観光客で賑わう熱海駅

駅前商店街は食べ歩きの聖地

「まちづくり」を横展開できるリーダーを

かつて熱海復活の象徴だった「リノベーションまちづくり」や「マチモリ」の活動。これらが点から面へと広がり、銀座商店街は活気を取り戻しました。しかし、現在はその成功体験を市全体へどう「横展開」していくかが問われています。

地価の高騰で若者の起業ハードルが上がり、人手不足で旅館の運営もままならない。住宅政策の規制緩和や、若い働き手が住みたくなるような「職住接近」の環境整備など、やるべきことは山積みです。

私はかつてユーグレナで、ミドリムシという「小さな可能性」を世界に解き放つために奔走しました。今、熱海に必要なのは、バラバラに動いている「観光」「住宅」「産業」というピースを、一つの「持続可能な街」として繋ぎ直す強力なリーダーシップです。

この美しい熱海が、日本を代表する「持続可能な自立型都市」へと進化するのか。その最前線で、私も一人の「熱海人」として、見守っていきたいと強く思いました。

訪問日:2026年2月6日(金)

熱海の中心的スポット「サンビーチ」

ACAO FOREST頂上から眺める相模湾

熱海市の情報まとめ

静岡県の東端に位置し、海と山に囲まれた人口約3.2万人の温泉観光都市。古くから「徳川家康が愛した湯」として知られ、明治以降は文豪や政財界の要人の別荘地として発展しました。バブル崩壊後の衰退を乗り越え、現在はメディア露出やSNS映えを意識した戦略、女性ターゲットのプロモーションにより、若年層が訪れる街として劇的な復活を遂げました。

産業:観光業が全産業の大部分を占める三次産業特化型。工業はほぼ皆無ですが、リノベーションによる新店舗や、地域商社による独自の特産品開発が活発です。

文化・観光:熱海サンビーチ、MOA美術館、熱海城、起雲閣などの名所が点在。また、年間を通じて開催される「熱海海上花火大会」は街の象徴となっています。

グルメ:相模湾の新鮮な「地魚」や「干物」に加え、「熱海プリン」に代表される新しいスイーツ文化が融合。老舗からモダンなカフェまで多様な食が楽しめます。

今回お話を伺った方

熱海市役所 観光経済課 責任者 熱海市の観光行政を支える実務のリーダー。秘書課などを経て現職。現場主義を貫き、民間主導の観光推進体制(DMO)への移行や宿泊税の導入など、熱海の未来を見据えた大胆な構造改革を推進している。

筆者プロフィール

福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ 代表取締役。1975年愛媛県生まれ。18歳で渡米し、異文化の中で「日本の価値」を再認識。帰国後、株式会社ユーグレナの創業に参画し、取締役として東証一部(現プライム)上場に貢献。「ミドリムシで地球を救う」活動に20年捧げた後、2025年、原点である地方創生を目指し「ニホンノチカラ」を創業。全国1,718市町村を巡り、地方の宝を発掘する「1718ニホン探索」を継続中。