守り抜くための変革。真鶴町で出会った「プロ経営者」としての町長の覚悟
真鶴町(神奈川県)ーー1718ニホン探索(6/1,718)
真鶴町(まなづるまち)小林町長と対談
全国1,718市区町村を巡る「1718ニホン探索」。第6番目の訪問地として私が訪れたのは、神奈川県の西端に位置する真鶴町です。
熱海、湯河原、小田原に挟まれたこの小さな町は、箱根の芦ノ湖とほぼ同じ面積。しかし、一歩足を踏み入れると、そこにはどこか懐かしく、それでいて計算し尽くされたような静謐な美しさが漂っています。この美しさを30年以上守り続けてきたのが、町の「憲法」とも呼ばれる「美の基準」条例です。
今回、私はこの町で、戦後初となる「町外出身・行政実務未経験」という異色の経歴を持つリーダー、小林伸行町長と対談しました。同い年(50歳)でありながら、11歳で「町長になる」と決意し、プロの行政経営者としてこの地へ飛び込んだ小林町長の言葉には、地方創生のヒントが隠されていました。
訪問先のオリジナルソングを作っています。ぜひブログと共にお楽しみください。
「美の基準」という誇りと、過疎という現実
対談の冒頭、小林町長は真鶴の町の在り方を語ってくれました。バブル全盛期、リゾート開発の波が押し寄せた際、当時の町長はそれを拒み、独自の景観条例を制定しました。個人の家でさえ「地域の公共財」と捉え、町並みに調和することを求める——。その徹底した美意識が、今の真鶴を形作っています。
しかし、その代償は小さくありません。かつて1万人を超えた人口は6,000人まで減少し、神奈川県唯一の「過疎指定」を受けることとなりました。
「『美の基準なんて言っているから人口が減ったんだ』と言われることもあります。でも、私はこの選択は正しかったと思うんです」
小林町長のこの言葉に、私は強く共感しました。私がアメリカ留学時代に感じた「日本の価値」とは、画一的な都市開発ではなく、その土地に根付いた文化や景観にこそあるからです。真鶴が守り抜いてきた「美」は、今や鎌倉や逗子の喧騒を逃れた人々を惹きつける、最強の観光資源であり、移住の動機となっています。
真鶴町の景観
プロ経営者視点での「行政DX」への挑戦
小林町長は、自らを「雇われ町長」と呼びます。町民を株主と見立て、その負託に応えるプロ経営者としてのスタンスです。大学院でMPA(行政経営修士)を取得し、客観的なデータに基づいて真鶴の課題を分析した上で、リコール騒動に揺れる町へと乗り込みました。
対談で特に熱を帯びたのは、行政の仕組みに対する危機感でした。 「地方自治体のネット環境は、いまだに昭和のままなんです」
驚くべきことに、多くの自治体ではセキュリティを理由に、一般的なクラウドツールやファイル共有すらままならない「LGWAN(総合行政ネットワーク)」の制約下にあります。小林町長は、この「過剰なセキュリティ意識」が、利便性を損ない、行政の進化を阻害していると指摘します。
人口が減り、税収が落ち込む中で、従来通りのサービスを維持することは不可能です。そこで彼が打ち出したのは、「景観を変えないために、内部を変える」という戦略でした。
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公共施設を4分の1迄削減
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スマートロック導入による24時間の無人管理化
「猶予を持たせつつ、変えられるところから変える。そうでなければ、町そのものが立ち行かなくなる」という言葉には、ユーグレナで数々の修羅場をくぐり抜けてきた私にとっても、身の引き締まるようなリアリティがありました。
三ツ石海岸
鯖みりんの干物
地方自治体の在り方の一つの形
真鶴町には、江戸時代から続く石材業や漁業、そして「美の基準」が育んだ唯一無二のコミュニティがあります。小林町長のような「外からの視点」と「経営のプロ」が、保守的な町の土壌と化学反応を起こすとき、地方は本当の意味で再生するのだと確信しました。
「変わらぬ景色を守るために、変わり続ける」
地方の在り方を一つ学ぶ事が出来た訪問となりました。
訪問日:2026年2月5日(木)
真鶴町の情報まとめ
神奈川県の南西端に位置する、人口約6,000人の港町。真鶴半島一帯が県立自然公園に指定されており、豊かな原生林と相模湾の絶景が共存しています。全国的にも珍しい「美の基準」条例を制定し、住民の手で美しい町並みが守られているのが最大の特徴です。
産業: 古くから「真鶴石(小松石)」の産地として知られ、江戸城の築城にも使われた歴史を持ちます。また、豊かな漁場を活かした沿岸漁業も盛んです。
文化・観光: 日本三大船祭りの一つ、国の重要無形民俗文化財「貴船まつり」が有名。三ツ石(真鶴岬)の景勝地や、森林浴が楽しめる「魚付き保安林」など、自然と共生する文化が息づいています。
グルメ: 「地魚の宝庫」として知られ、新鮮なアジ、サバ、伊勢海老などの海鮮料理が絶品。特に地元の魚を使った「まご茶漬け」は、漁師町ならではの郷土料理です。
今回対談したリーダーのプロフィール
真鶴町長:小林 伸行(こばやし のぶゆき) 1975年、福島県三春町生まれ。神奈川大学卒業。国会議員秘書、横須賀市議会議員(4期)を経て、早稲田大学大学院政治学研究科にてMPA(行政経営修士)を取得。2023年、真鶴町長選挙に初当選。「プロの行政経営者」として、人口減少対策や行政DX、公共施設の再編など、持続可能なまちづくりに向けた大胆な改革を推進している。
筆者プロフィール
福本 拓元(ふくもと たくゆき) 株式会社ニホンノチカラ代表取締役。愛媛県新居浜市出身。株式会社ユーグレナ共同創業者として東証一部(現プライム)上場を果たす。2026年より地方創生を目指す起業家として、「1718ニホン探索」プロジェクトを開始。全国1,718市町村を自ら回り、地域のリーダーとの対談を通じて、日本の地方の可能性と課題を発信している。







